APDについて

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 耳鼻科の医院へ行くことになったのは、最初にAPDというものに触れてから半年経った頃のことだった。その時、頭をよぎるのはAPDという症状のことを知らない耳鼻科医もいるという情報だ。大都市ならいざ知らず、私が住んでいるのは地方都市というには過疎化が進んでいる町で、高度な診察など望むべくもない。だが、最初に訪れる耳鼻科は決まっていた。普段花粉症の時期にお世話になっている女性の医者が営んでいるところだ。Googleの星評価も高いし、口コミでも「あそこは親切で丁寧だ」と評判は上々。  ただ、一つだけ問題があった。その耳鼻科は人気があるので、飛び込みで行っても診てもらえる確率は低い。確実に診てもらうには、早朝から並んで順番をとる必要があった。私が通院する際も順番を取るのに早起きをする必要があり、それが苦痛でならなかった。だが、受診すると決めたからには、苦手な早起きをしてでも耳鼻科に行くという決心があった。    受診当日の朝、午前六時半に起床すると、すぐさま家を飛び出し、耳鼻科へ向かっていった。耳鼻科の前にはすでに七人ほど並んでいた。医院のドアが開くのが七時なので、到着後少し待つ必要があった。十一月初旬の早朝は空気が冷えて体に沁みる。寒さに弱いので、もう少し厚着をしてくればよかったと少し後悔する。七時になり、順番表の書き込みが始まった。徐々に順番が迫ってくる。私の後ろにも、何人も並んでいた。そして、私の順番が来て、名前を書き込んだ。八番というのが順番だった。何時ごろの受診になるかは分からない。とにかく九時開院なので、九時半に行けばいいだろうと予定を立てた。  診察を待つ間、「APDのことを知っている医者でありますように」と願わずにはいられなかった。名前を呼ばれた。緊張が走る。中待合室で待機している間にも緊張感は高まる一方だ。硬い椅子がより硬く感じられる。再び名前を呼ばれる。「はい」と返事をする。医者に病状を聞かれて、 「耳の調子が悪くて、聞き取りが難しくなっています」  と正直に言った。即座に聴力検査の部屋に案内され、高い音から低い音まで左右両耳の聴力検査を行った。自分でも驚くほどよく聴こえた。しかし次の瞬間だった。 「次は……ですので、……ください」  看護師の言った指示が聞き取れなかった。しばらく、ポカンとしている私に看護師は、 「次は先生の診察ですので、中待合でお待ちください」  と言い放った。「これだ」と思い至った私は椅子から立ち上がり言った。 「これなんですよ! やっぱり聞き取れないんだ! 分かりますか?」 「分かりました」  看護師の冷静な対応が冷たく思えたが、私は中待合の椅子に座った。「分かってもらえないのだろうか?」不安に陥る中、再び診察を受ける。 「聴力検査の結果、異常はありませんでした」  安堵と不安が交錯する。 「APDって知ってますか?」  自分の耳に医師の言葉が入った時に、希望が湧いた。 「はい、知ってます」  私は前のめり気味に答えていた。  医師はAPDの基本について説明した後、大阪の大学病院に紹介状を書くと言ってくれた。  大阪。  私の住む田舎町からは遠く離れた都会だ。  それでも、私の気持ちに不安は少なく、大阪に思いを馳せていた。
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