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待っている間はどうしても不安になるものである。その冬は自分がどのような状態なのかを知れないまま過ごした。APDなのか、ただの思い過ごしなのかを確かめるのに、ひと冬という待ち時間はとても長く感じられる。
冬の間も、EさんのYouTubeやSNSなどを見てはちょっとした情報に喜んだり、当事者の辛い体験に凹んだりした。APDのオープンチャットがあることを知ったのもこの時期だった。LINE上で繋がれるというのがありがたい。玉石混交の情報の中で、戸惑いながらもそれらを貪っていた。
オープンチャットの情報に、APDの当事者会というものがあった。文字通りAPD当事者が開く当事者のための交流を図る会であった。確かに、この症状はなかなか理解されないものだった。当事者会は必要だったが、主要な会は都市部でなければ開催されていなかった。私の住んでいる地域だと、大阪か名古屋まで行かないといけない。直近で開催を予定しているのが名古屋だったので、参加を希望した。
名古屋まで電車で約二時間、そこから地下鉄に揺られること約三十分。目的地の最寄駅に到着すると、それまで人混みに揺られていた疲れがどっと出たのか、思わず立ち止まってしまった。しばらく、目的地を探して歩き回ったが、そこは本当の駅前で真っ直ぐ行くと二分もかからないような場所だった。建物の中に入ると、暖房が効いている。それまで寒空の下を歩いていたので、汗が出てきた。当事者会の会場にはすでに何名か座っていて、それぞれが緊張した面持ちをしている。私も空いている席に座り、コートを脱いだ。
「今日は当事者会に参加していただき、ありがとうございます。主催のNと申します」
妙齢の女性が話を始めた。この会の主催者らしい。挨拶に続いて、APDとは何かという話になり、机の上の手作りの冊子を見るように促された。
「私自身もAPDでして、それ以外に聴覚過敏もあります」
と話すNさんはイヤーマフが欠かせないとのことだ。それ以外にも、デジタル耳栓と呼ばれる昔のポータブルMDプレーヤーにイヤホンがついたような物や、ノイズキャンセリングイヤホンの実物を見せてくれた。そして、実際につてた心地を体験させてくれるのだという。ノイズキャンセリングイヤホンを耳に付けてみる。すると、今まで気になっていた空調の音がぴたりと止んだ。驚かずにはいられなかった。感想を聞かれても、
「いや、すごいですね」
としか言えないくらい呆然としていた。
当事者会が進んでフリートークの時間になると、各自がいかに仕事や日常生活に支障を来しているかを自慢するように語り合う。私もその一人だった。指示が聞き取れないだの、電話対応ができないとか、大体の悩みは似通っていた。そして、解決方法を見出すことができず、傷を舐め合うようになってしまっていたことは否めない。それでも休憩時間も挟まずに話し込んだことは、少しでも傷を癒すことになったと思っている。
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