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「越野くん、私、アルパカになりたいの」
放課後の教室で、俺は教科書をカバンに詰めていたところ、目の前の席の清川さんからこんなことを言われた。
「えっと、アルパカって、動物のアルパカ?」
俺はいちおう聞いてみた。アルパカと言われて他にあるはずがないが、聞かずにはいられなかった。
「そう、動物のアルパカよ」
清川さんは、厳かな口調で言う。そのあまりに真剣な表情に、俺は気圧される。
清川さんは、普段から真面目で、頭脳明晰、品行方正、まさにこのクラスの優等生だ。そんな清川さんが、ふざけてこんなことを言うはずがない。
「あのお、なんでアルパカになりたいと思ったのかな」
俺は聞いてみた。きっと、彼女なりに、何か理由があるはずだ。
「聞いてほしいの。アルパカになりたい理由は……」
そこで清川さんは大きく息を吸う。
「モコモコだからよ」
彼女の鋭い視線が、俺を貫く。
モコモコだからよ。その力強い言葉が、脳の中でリフレインされる。
俺はそこで思い出した。女子高生は、なんかモコモコしたものとか、キラキラしたものとかが好きなのだ。清川さんは、女子高生だ。そして、アルパカは、誰が何と言おうとモコモコだ。つまり、清川さんがアルパカになりたいと思うのは、もはや抗えない運命なのだ。
「こんなことを頼めるのは、越野くんしかいないの」
清川さんが言う。頼めるのはあなたしかいないの。こんなキラーワードを言われたら、男として引き受けるしかないだろう。
「分かった。俺が何とかするよ」
少しだけ胸を張り、そう答える。
「ありがとう。嬉しいわ」
そう言って、彼女は優しく微笑んだ。
その表情に、俺はきゅんとする。そう、男として、全力で彼女の望みを叶えるべく努力しなければいけない。
しかし、俺は一つだけ、疑問に思うことがあった。アルパカって、どうやってなれるんだろうか。
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