私はアルパカになりたい。

1/6
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
「越野くん、私、アルパカになりたいの」 放課後の教室で、俺は教科書をカバンに詰めていたところ、目の前の席の清川さんからこんなことを言われた。 「えっと、アルパカって、動物のアルパカ?」 俺はいちおう聞いてみた。アルパカと言われて他にあるはずがないが、聞かずにはいられなかった。 「そう、動物のアルパカよ」 清川さんは、厳かな口調で言う。そのあまりに真剣な表情に、俺は気圧される。 清川さんは、普段から真面目で、頭脳明晰、品行方正、まさにこのクラスの優等生だ。そんな清川さんが、ふざけてこんなことを言うはずがない。 「あのお、なんでアルパカになりたいと思ったのかな」 俺は聞いてみた。きっと、彼女なりに、何か理由があるはずだ。 「聞いてほしいの。アルパカになりたい理由は……」 そこで清川さんは大きく息を吸う。 「モコモコだからよ」 彼女の鋭い視線が、俺を貫く。 モコモコだからよ。その力強い言葉が、脳の中でリフレインされる。 俺はそこで思い出した。女子高生は、なんかモコモコしたものとか、キラキラしたものとかが好きなのだ。清川さんは、女子高生だ。そして、アルパカは、誰が何と言おうとモコモコだ。つまり、清川さんがアルパカになりたいと思うのは、もはや抗えない運命なのだ。 「こんなことを頼めるのは、越野くんしかいないの」 清川さんが言う。頼めるのはあなたしかいないの。こんなキラーワードを言われたら、男として引き受けるしかないだろう。 「分かった。俺が何とかするよ」 少しだけ胸を張り、そう答える。 「ありがとう。嬉しいわ」 そう言って、彼女は優しく微笑んだ。 その表情に、俺はきゅんとする。そう、男として、全力で彼女の望みを叶えるべく努力しなければいけない。 しかし、俺は一つだけ、疑問に思うことがあった。アルパカって、どうやってなれるんだろうか。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!