血の呪い

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「メアリー、落ち着いて。大丈夫、僕がついてるから」  メアリーの肩をポンポン叩きながらそう言ってはみたものの、落ち着かなくてはならないのは実は僕の方だった。  彼女の言葉はあまりにも常軌を逸していて、とても受け入れられるものではなかった。人の血を飲むだなんて・・・。  そんな異常な考えがどこから入り込んだのかは判らない。でもきっとメアリーは虚妄に囚われているに違いなかった。こんな陰気な館の中に毎日閉じ籠もって暮していたら、そりゃ誰だっておかしくもなるだろう。  しばらく僕は聞き役に徹するつもりだ。彼女にもっと喋らせてみて、少しでもおかしな点があったら『そこ、おかしいよ』と客観的に指摘してあげよう。 その間違いに気付く事さえできれば、正常な判断力を取り戻すはずだから。 「私、このことをまず()さんに相談したの」  またメアリーはとつとつと話し始めた。 「ちょっと待って、李さんて誰?」 「お父様の古くからのお友達よ・・・。お医者様なの」 「なるほど、続けて」 「李さんはどこからか血を運んできてくれたわ。そして『飲みなさい』って。  私、それを飲もうとしたのだけど・・・飲めなかった。誰のだか分からない血なんて、気持ち悪くて顔を背けてしまったわ。  そしたら李さんは『これは貴女自身が決断すべき問題ですから』と言って帰っていった。あと『お母様に打ち明け相談することが最善かと思います』だって」 「そうだ!どうしてこの事をシエリさんに相談しなかったんだい?」 「言えない!言えるわけないわ!言えば私に血をくれようとするはずよ。お母様はずっとお父様に血を与え続けて、身体も心もボロボロになってしまった!髪も真っ白になってしまった!・・・これ以上そんな事をさせるくらいなら、私が死んだほうがマシよ!」 「なるほど、わかったよ。わかったから落ち着いて・・・」  メアリーを宥めながら、心の中で言いようのない気味悪さを感じていた。その話の中では血を運んできたり飲ませたりと、李さんという人ばかりかシエリさんまでもが異常な行動をしているのだ。あの優しくて聡明なシエリさんが!?    同じ妄想に取り憑かれた人が三人も・・・?いやそれとも、メアリーの言うこと全てが妄想なのではないか?むしろそうであって欲しいという気分だった。  この時の僕は、自分がその中で生きてきた常識というのが絶対と信じていたから、彼女の話は頭から否定してしまっていた。 でも後になって、それを猛烈に後悔することになるのだ。  
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