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夕方になっても、人の波はほとんど途切れることがなかった。
次から次へとやってくる。
ずっと喋りっぱなしでなかなかにハードだ。
もともと人気企業だということもあるが、ブースにいる成田を見て吸い寄せられるようにやってくる女性も相当数いる。
まさに客寄せパンダだ。
カッシーはこれも狙ってたから、チラリと目を向ければホクホク顔だった。
18時半を過ぎ、ようやく閉場した時にはもうヘトヘトだ。
何人もの初対面の人と連続して話すというのは思いの外疲れる。
……人事部の人は面接の時とかいつもこんな感じなんだろうなぁ。すごっ。
今まで知らなかった苦労を知り、尊敬の念を抱いた。
喋りすぎて喉の渇きがひどく、陳列してあるリッカプレミアムを今すぐ飲みたい気分だ。
グッとその気持ちは抑え、代わりにミネラルウォーターで喉を潤した。
「お疲れ!2人とも今日は本当に助かったよ!集客効果抜群だし、やっぱり営業と宣伝の仕事内容知りたがる人も多かったしね」
一息ついているところにカッシーがやって来て労ってくれる。
実際カッシーの言っていたとおりで、確かに営業と宣伝に興味がある人は多かった。
たぶん求職者にとって分かりやすい職種だからだろう。
営業は言わずもがなだし、宣伝はテレビCMなどを目にしていれば身近に感じるのも不思議ではない。
「あとの片付けは俺がやっとくから、晴人と菜月は帰っていいよ。本当にありがとうね!」
疲れ果てていた私はカッシーの言葉に素直に甘え、ひと足先に帰らせてもらうことにした。
帰り支度を整え、成田と一緒に出口に向かって会場内を歩く。
どこの企業ブースも片付けの最中のようで、会場内はザワザワとしていた。
会場を歩いていると、改めて多くの企業が今日は出展していたんだな実感する。
そんな時だった。
「菜月!」
周りをキョロキョロしながら歩いていたら背後から突然名前を呼ばれた。
声の主は隣にいる成田ではない。
カッシーでもない。
足を止めて振り返った私はそこにいた人物を見て目を見開いた。
つい先日会ったばかりで、もう二度と会うことはないと思っていた相手。
敦史だったのだ。
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