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「……あぁ、それね、実は考えを改めたっていうか。今はもう気にしてないかな」
「へぇ〜、そうなんだ!」
私はちょっと決まりが悪い思いで答えた。
意外だという顔をする同期女子たちを見て、いかに私が普段強く主張していたのかを思い知る。
ますますバツが悪い。
「それならさ、うちの支社の先輩はどう?前からずっと菜月のことタイプって言ってて。でも菜月が仕事関係者はNGって知ってたから黙ってたの」
「実はうちの部署の後輩も菜月に憧れてるらしくって。つい最近も彼氏いるか聞かれたのよ。社内の人オッケーなら考えてみない?」
お見合いのような提案を次々受けて面食らう。
仕事関係者は対象外というのを取っ払ったのは、あくまで”例外”が発生したからという理由だけ。
積極的にそっちに行くという意図は毛頭ないのだ。
「そんなに難しく考えずにさ、まずは気楽にどう?とりあえず会ってーー………」
話を進めるため口を開いた同期の女の子が、突然不自然なタイミングでピタリと言葉を止める。
口を閉ざした彼女は、そのまま私の背後のある一点をしきりに見つめ出した。
その瞳には興奮の色が浮かんでいる。
他の女の子たちも同様の様子で一斉にそちらの方を見ている。
不思議に思い私も自分の背後を振り返る。
するとそこには、同期女子の視線を一身に集めた成田の姿があった。
いつのまにかすぐ近くにいたらしい。
なぜか脇目もふらずこちらに近寄ってくる。
成田に好感を持っている同期女子たちは、成田が来たことに一様に嬉しげな顔になった。
私はというと、突発的なことになんとなくギクリとして体が強張ってしまった。
そんな中、私たちが話している輪にやって来た成田が突然思いがけない爆弾を放った。
「菜月、忘年会抜けて今から俺ん家行かね?」
あまりにもストレートな成田の一言。
瞬間、その場はザワリと大きく騒めく。
近くにいた同期にも聞こえていたようで、ざわめきがどんどん周囲に伝染していく。
「ええええっ!」
「成田くんと菜月ってもしかしてーー!?」
「うそ、2人っていつの間に!?」
……ああ、何かこの感じデジャブ。前にも同じようなことあったなぁ。
あれは確か入社してしばらく経った頃の同期会だっただろうか。
盛大に誤解されることを嫌がらせのように述べた成田を悪魔だと思った記憶がある。
……あの時とは状況が違うのに。成田は彼女いるんだから、こんな発言がウワサになったら困るでしょ!?
混乱する周囲と戸惑う私の様子なんて我関せずというように成田はいつも通りの様子だ。
気付けば私の二の腕をガッシリ掴んでいた。
周囲の誤解を解こうと私が口を開くより先に、そのまま成田に腕を引かれる。
そして、言葉通りに会場の外へと連れ出されてしまった。
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