#26. 境界線の向こう側

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#26. 境界線の向こう側

「……ちょ、ちょっと!成田っ……!ストップ、ストップ!!」 腕を引っぱりながら無言でズンズン進んでいく成田に声をかける。 あまりに早足で歩くから足がもつれて転んでしまいそうだ。 忘年会の会場を出て、ホテルのエントランスを抜け外に出たところで、ようやく成田は足を止めた。 私の腕から手を離し、こちらを見る。 真正面からお互いの視線が重なった。 成田の瞳には怒り、混乱、焦燥、渇望と色んな感情が複雑に入り混じった色が浮かんでいる。 珍しく感情的だ。 それがなぜなのか、どういう感情なのか私には皆目検討がつかない。 ただ、その瞳をじっと見つめながら、こうして向き合うのはとても久しぶりのことだなと感じていた。 「……なに?」 「いや、なにって。いきなり忘年会抜けてきたらマズイでしょ!」 「なんで?」 「なんでって、あのまま抜けたらウワサになっちゃうじゃない!」 「……ウワサになんのがお前は困んの?」 「困るのは成田の方でしょ。彼女がいるのにそれはさすがにマズイと思う!」 「…………は?」 成田は鳩が豆鉄砲を食ったように絶句した。 相当に驚いている様子だ。 同時に理解しがたい未確認生物を検分するかのように私を見てくる。 なぜこんな風な視線を向けられるのか私の方こそ分からない。 「…………彼女ってなに?」 「なにって成田の彼女のことだけど」 「は?なにそれ」 「えっ?……営業部の舞川さんと付き合ってるんでしょ!?」 「はぁ!?」 「ええっ!違うの!?」 なんだそれと呆れた顔をする成田に今度は私が驚かされる。 一体どういうことか頭が混乱してきた。 そんな私に追い討ちをかけるように成田がさらに意味不明なことを言い出す。 「お前こそ、さっき彼氏いないとか言ってたけど、あれなに?」 「何言ってんの?既婚者だった元カレと別れたことは成田も知ってるじゃない!」 「…………ヨリ戻したんじゃねーの?」 「はぁ!?なにそれ!ありえないんだけど!」 「マジか………」 どうやら私たちはお互いに相当大きな誤解をし合っていたようだ。 それぞれの言葉に驚き、信じられないと目を見開き合う。
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