#26. 境界線の向こう側

2/4
前へ
/124ページ
次へ
 ……え、なに。つまり成田は舞川さんと付き合ってないってこと?ということは、彼女はいないってこと?? あの家に行ったという話は何だったの?という疑問は残る。 ただ、彼女ができてしまったから今さら遅いとすべてを諦めていた私にとって、明らかに嬉しい事実だった。 途端にジワジワと嬉しさが身体中を包み込む。 「……とりあえず、俺ん家行くか」 ハッとあたりを見回せば、私たちは周囲から大変な注目を浴びていた。 ホテルの前の道で言い合っていたのだから当然と言えば当然だ。 しかもこの寒空の下、コートすら羽織ってなくて会場にいた時の格好のままである。 気が昂っていてすっかり寒さが吹っ飛んでいたが、意識が向けば途端に凍えてくる。 私たちは一旦ホテルに戻り、クロークでコートを受け取った。 忘年会に今から戻るのは見合わせることにする。 すでに変な注目を集めてしまっているであろう場所に戻ったところで、質問の集中砲火を浴びるのは目に見えていたからだ。 それに色々誤解があったらしい成田と今話をするべきだろう。 私たちはそのままタクシーに飛び乗り、成田の家に向かうことになった。 「それで、舞川さんと付き合ってないって本当なの?」 成田の家に着き、ソファーに座るやいなや、私はさっそく切り出した。 さっき成田は否定してたけど、まだ疑問が残る部分もある。 この機会に勢いに任せて確認してしまおうと思った。 「だから、あんな女のことなんか知らねーってさっきも言っただろ」 「でも」 「でも?」 「………舞川さんの家に行ったんでしょ?本人が言ってるの聞いたよ?」 ズバリ聞きたかったことを述べた。 これがあったから、私は2人のことを確信したのだ。 「あぁ、そのこと」 成田はなんてことない感じでアッサリとした態度だ。 だからさらなる疑問も上乗せしてみた。 「……成田も否定してなかったみたいだけど?」 「まぁ事実だからな」  ……やっぱり事実なんじゃない。 ガッカリする気持ちが込み上げてくる。 しかし、次の言葉に意表を突かれた。 「俺は大学時代の男友達の実家に用事があって行っただけ。そいつが何の因果かあの女の兄だったってオチ」 「えっ……」 聞けば、男友達の実家で偶然彼女と鉢合わせたらしい。 成田も彼女が友達の妹だとは知らなかったそうだ。 舞川さんにしてみれば、思いもよらない嬉しい偶然にここぞとばかりに利用したのだろう。  ……なんだ、じゃあ本当に彼女じゃなかったんだ!成田にはまだ特別な人はいないんだ……!
/124ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7126人が本棚に入れています
本棚に追加