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「……なんだそれ」
成田の胸に顔を埋めた私の頭上から、さっきと同じ言葉をつぶやいた成田の声が降ってくる。
「ホントお前って何年経ってもどこまでいってもお前だな。いっつも想像を超えてくるし、いちいち俺を驚かせるし」
はぁというため息、呆れたような声が聞こえる。
そんな言葉と態度とは裏腹に、私を抱きしめる腕は優しい。
大切なものを壊してしまわないようにそっと包み込むような抱擁だ。
「………成田?」
言葉と態度がチグハグな成田の真意が分からない。
私は胸から顔を離し、腕の中から成田の顔を見上げた。
「まったく、お前はマヌケすぎなんだよ」
「ちょっと、マヌケって!事実なのが悔しくはあるけど!」
「気付くの遅すぎだっつーの。やっとかよ」
「……むぅ」
いつものような口喧嘩の応酬だ。
私が想いを正直に伝えたところで、結局私たちは私たち。
なにも変わらないらしい。
「ホントに遅すぎ。バカ。マヌケ」
「事実だけど言い過ぎじゃないっ!?」
「………俺にとってはもうとっくの前から菜月はそーいう存在だってのに」
「……えっ!」
口喧嘩の最中、突然放たれた一言に目を丸くする。
今、聞き捨てならないセリフが聞こえた気がするのだ。
……それって、つまり……?成田も私のことを……??
「俺は最初から菜月のことただの同期だなんて一度も思ったことなかったし。お前が気付くの遅すぎなんだって」
「えっ、最初から!?最初からってなに?いつから?」
「さぁ?ムカツクからお前には教えない」
「ええっ!」
思いがけない事実がポロポロ出てくる。
成田も私と同じ気持ちだったと知ってこれ以上ない喜びでいっぱいだ。
ただ、そんな喜びの余韻に浸る暇を成田は与えてくれない。
「こんだけ俺のこと待たせたんだから、それ相応の誠意は見せてくれんだろ?」
ニヤリと悪い顔で成田が笑う。
……あ、魔王だ。
今までの経験上、嫌な予感がヒシヒシとする。
反射的に体を離そうとした私を成田はもちろん逃さない。
「……誠意って?」
「そうだな。じゃあ俺の好きなとこ100個言って」
「ええっ!いきなりそんな事言われても……恥ずかしすぎて無理っ!」
「言っただろ?それ相応の誠意だって。簡単にこなされたら意味ないわ」
「くっ……。この悪魔!魔王……!!」
「はいはい」
口の端を上げる嫌味な顔をした成田を私は睨んだ。
いっつも魔王・成田にやられっぱなし。
なんとか一矢報えないものだろうか。
そこで私は今だからこそできる手にでる。
「言うまで離さねーから観念したら?」
「…………じゃあ一生言わないから、一生離さないでいてくれる?」
上目遣いで可愛く問いかければ、虚をつかれた成田は真顔になってフリーズした。
再起動した時には、ぶっきらぼうな態度で照れたみたいに顔を背ける。
……成田ってホントに私のこと好きなんだ。ふてぶてしいって思ってた態度もなんか可愛いかも!
私が初めて魔王に勝った瞬間だった。
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