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エピローグ
忘年会の日、お互いの気持ちを確認した私と成田。
あれから私たちはセフレを卒業して、
同期以上の存在として、
正式に恋人として付き合うことに…………
ならなかった。
なぜなら……
「いや〜まさかこうなるとはねぇ」
「ふふっ。私はなんとなく予感はあったけどね〜!」
カッシーと三咲が口々に声を上げた。
今日はいつものメンバーで鍋を囲みながら家で飲んでいる。
この前は私が鍋パーティーに不参加だったからリベンジ中。
今回はレモンをたくさん敷き詰めたレモン鍋に挑戦している。
「ま、なんていうか晴人と菜月っぽいかもね」
「うん、そうだね〜!」
2人は笑顔でそう言いながら、私と成田の左手の薬指に光るものを見た。
そう、私たちは恋人をすっ飛ばして夫婦になった。
いわゆる交際0日婚。
話し合った結果、もう6年も同期として一緒にいるし、今さら交際とか不要じゃないかという結論に達した。
体の関係がすでにあって、セックスの相性も確認済みだったというのもある。
あの日、私がプロポーズみたいなことをすでに口にしていたし、じゃあそうする?ってなったのだ。
決めた後は早かった。
成田と仕事で連携する時のように、入籍に向けてやることをリサーチし、書き出し、一つずつ2人でこなした。
年末年始を利用して双方の親に挨拶し年明け早々には婚姻届を提出。
晴れて夫婦となった。
「ねぇねぇ、旦那様になった成田くんってどんな感じなの〜?菜月には甘い言葉とか囁いてくれたり?」
成田とカッシーが足りなくなったビールをコンビニに買い出しに行って家からいなくなった途端、三咲が興味津々な様子で聞いて来た。
さっきから聞きたくてウズウズしていたようだ。
「う〜ん、別に今までと変わんないかも」
「えっ?本当に!?」
「うん」
三咲はとても驚いた様子だが、私が言ったことは紛うことなき事実だった。
結婚したからと言って、成田が急に甘くなったということはない。
いつも通り、あのまんま。
あいかわらず、常に気怠そうな雰囲気で、口は悪く、態度はふてぶてしい、無駄に顔の良い男。
だけど、これまでどういう想いでいたのかとかをたまに話してくれるようになった。
それで私は知ったのだ。
口喧嘩みたいに言い合うのも。
宝物を扱うように優しく繊細に触れるのも。
セックスの後に抱きしめて眠るのも。
すべて私にだけ、ってことを。
普通の男の人みたいな分かりやすい言葉や甘い言動があるわけじゃない。
一見すると成田の愛情は分かりにくい。
でも私は最上級の特別扱いをされているのだ。
……分かりにくすぎて、気付くのに6年もかかっちゃったけどね!
これまで仕事関係者は対象外だと明確に線引きをしてきた。
それが間違ってたかと問われれば、そうだとは私は思わない。
ただ、決めつけすぎるのは良くなかったなと今なら思う。
なにごとにも”例外”はあるのだ。
頑なに線を引いていたそのラインを越えてみたら、かけがえのない存在がいた。
法的な続柄だと夫。
でも”夫”という単純な単語じゃ全然足りない。
同期であり、同志であり、天敵であり、そして恋人以上の大切な存在。
それが私にとっての成田だ。
境界線のその先で、
そんなかけがえのない存在を
私は手に入れたのだ。
〜END〜
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