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プロローグ
「ねぇ、菜月の部署にはアプローチしたくなるようなカッコイイ人いた?宣伝部どんな感じ!?」
大学卒業後に入社した会社での3ヵ月間の研修期間を終え、各部署へ配属されてから数ヶ月。
今日は久しぶりに同期の多くが集まった飲み会だ。
それぞれの部署で鍛えられ、社会人として仕事の楽しさと厳しさを痛感する日々。
だからこそ、研修で苦楽を共にした同期がこうして久しぶりに集合すると、賑やかなものとなる。
そんな場で、ふいに同期の女の子達から保科菜月は好奇心旺盛な目を向けられた。
菜月が配属された宣伝部は、本社の中でも花形とされる部署。
そこの社員も顔面偏差値が高いともっぱらのウワサだった。
実際に、菜月もスラリと背の高いモデル体形の美人。
だからこそ、ウワサにも信憑性が増す。
本社以外に配属された同期にとっては、実際に宣伝部の実態を知る機会もなく、興味津々なわけである。
しかも菜月は美人なのにそれを鼻にかけることもなく、かなりサバサバした性格なので聞きやすい。
あわよくば、菜月経由で宣伝部のイケメンと知り合えるかもと下心を抱えている同期もいた。
そんな同期の期待に満ちた視線に対し、聞かれた本人は、生ビールを一口グイッと飲んだ後、前髪をかきあげながらゆっくりと口を開く。
「あのさ、社会人として数ヶ月働いてみて、私気づいたんだよね」
「ん?なにを?」
いつになく真剣な菜月の声色に、同期たちは耳を傾けた。
「会社の人とか取引先の人とか仕事関係の人は絶対に恋愛対象に見れないってこと。だってオンとオフをそんなに器用に切り替えられなくない!?私には無理って働いてみて分かった!だから恋愛的な意味でカッコイイ人ってのがよく分かんないや」
どうやら菜月は完全に男脳なようで、仕事をしている時は仕事モードのスイッチが入るらしい。
ひとたびそのスイッチが入ると、一つのことに集中して周りが見えなくなるし、相手との利害関係を気にしてしまうという。
だから、そもそもそういう目で部署の人を見てないから、カッコイイ人いるかと聞かれても分からないというのが菜月の答えだった。
「仕事関係者とは恋愛絡みで気まずくなりたくないし、仕事へ影響を及ぼしたくないしね」
「じゃあ同期もナシってこと?」
「同期は同志みたいなもんでしょ。余計に男に見れないってば〜!」
「え〜、私は会社の人ってアリだけどなぁ。仕事でフォローされるとドキッてしちゃう!」
そこからは、話がどんどん恋愛トークに流れていく。
女子が集まれば恋愛トークは盛り上がる話題の鉄板だ。
みんな各々の意見を述べるけど、どうやら「仕事関係の人は無理」という菜月の意見は少数派で、あまりその場で共感するものはいなかった。
菜月にとっては、みんなが言う「イケメンがいい」、「包容力のある人がいい」みたいな好みのタイプと同じ。
「仕事関係者以外がいい」というだけのこと。
共感は得られないものの、菜月本人は「入社早々にこのことに気づけて大収穫!」と心底思っていた。
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