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 僕たちは、デボンのアジトへやって来た。デボンに心臓を抜かれ、コレクションへと変わり果てた美幸を見つけた。その姿はまるで、心をどこかへ置き忘れてしまった人形のようだった。チェチェが云うには、コレクションにされた者は対になる等身大の人形が存在する。その人形は胸の中央が扉になっていて、本人の心臓はそこから抜き取られる。だから、その人形に美幸の心臓を戻せば助ける事ができる算段だ。  肝心の心臓はどこにあるのか? コレクションの鮮度を維持するために心臓が止まってしまわないよう、学校のプールに似た巨大水槽へと放り込まれる。水槽のある場所へ行くと、既に八分目まで溜まっていた。ひとたび放り込まれたら、どれが誰の心臓かなんて分からないじゃないか。   「なんて量だ。この中に入るのか……」    まさか人間の心臓プールへ入る事になるなんて、考えてもみなかった。見ているだけで足が竦む。もしも探している間に、デボンに見つかってしまったら……。どんな恐ろしい生き物かも分からない脅威から逃げ切れるのか? それでも。   「やるしかない」    僕の言葉にチェチェも頷いた。   「美幸の心拍は、トト、トン。トト、トン。って鳴るんだ」 「うん、ミユキにギュってしてもらった時に聞いた。可愛い音だと思ったから、覚えてる」    僕たちは水槽の中へと進み、一つずつ耳に近付け、美幸の音を探した。三日三晩、ほとんど休みなく続けた。半分まで終わった時に、あまりの過酷な作業にチェチェが倒れてしまった。   「チェチェ、少し休んでくれ。あとは僕が探すから」    そう言って、彼女を抱きかかえた時だった。水槽のヘリに立つ人影が僕の視界に入った。こちらをじっと見ている。その視線は、まるで刃物を切りつけているかの如く恐ろしかった。   「お前たち、そこで何をしている?」    おそらく、それがデボン。上半身は人の形。逆立ち頭上へ伸びる髪は白。肌と唇は、まるで色を失ってしまった灰色。二つの瞳は赤く光を帯びている。でも、見た目の恐ろしさは下半身にあった。大人の人間を簡単に絞め殺せるであろう大きな大蛇。  やばい! チェチェを抱えたまま、反対側へ逃げた。デボンが水槽の中へ降りてくる。   「うぅ、気持ち悪い。よくもまあ肥溜めの様な所へ入ったな」    ゆっくりと、身を歪め水槽の中へと入って来た。ウネウネと身体をくねらせ、中央まで進むと動きを止めた。どうやら、周囲から聞こえる心拍音に気付いたようだ。   「お前たち、誰かの心臓を探しているな。まさか、私のコレクションを盗もうとしているのではないだろうな」 「だったらなんだ! 美幸は、ぜったいに返してもらうからな」 「ふっ……そうか、あの美しい娘だな」    デボンは瞼を半分落とし、再び動きを止めた。……トン……トト、トン。トト、トン。  このリズム! 美幸の心臓。どんなに探しても見つからなかったのに。これも、デボンの能力なのか。   「これだな。あの娘の心臓は」    どれも似た形をしている心臓の中から一つを拾い上げた。デボンの掌の上で、か弱く怯え、震えている。  トト、トン。トト、トン。  間違いなく美幸のだった。  デボンは身体を使い円を描き、胴体をグルグルと回転し始めた。すると水槽全体に渦ができ、心臓が掻き混ざっていく。   「ふはは。残念だったな」    デボンの掌から滑り落とされた美幸の心臓は、渦の中へと消えていった。再びデボンが俺を見る。   「お前は、人間だな」    鋭い瞳を細め、さらに鋭利な視線で僕を見据えた。 「醜い。コレクションにならない人間はこの世界から出て行け」    次の瞬間、カーブミラーのある交差点にいた。   「あれ、僕、何してた? 立ったまま寝てたのか?」    夢を見ていた気がしたけど……なんだっけ? それに身体が生臭い。   「うえ、なんでこんなに汚れてんだ」    訳が分からず、僕はアパートへ帰った。  
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