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その後
それからも私はうっかり何回か落とし物をしてしまったことがあった。
そして、その度に聞こえる声は完璧に無視することを繰り返したのだった。
そうして、1年ぐらいが過ぎた。
「ねえ、お前は落とし物をしなくなったね。」
「お母さん…。」
そんな風に母親に言われて、私はそういえばそうだと思った。
あんなに治らなかった落とし物癖は、綺麗になくなっていった。
どうしてなんだろう。
「そういえば、うちのおばあちゃんも若い頃は、落とし物が多かったんだって。ある時期を境にぴったりと治ったそうだけれど…。家系なのかしらね。」
ひょっとして、おばあちゃんも声が聞こえていたことがあったのだろうか。
だから、あんな風に助けられたのかもしれない。
それから月日は流れて私は結婚をして子供が生まれた。
子供は可愛い女の子ですくすくと成長して行った。
私はめまぐるしい子育ての日々の中で、学生時代に奇妙な声が聞こえたことなんて、時々思い出すぐらいの立ち位置になっていった。
そうして、いつのまにか娘も結婚をして子供を産むぐらいに時間が過ぎていった。夫と二人でゆっくり時間を過ごすのも悪くないものだった。
そんなある日、娘から電話が掛かってきたのだった。
「おかあさん。元気?ごめんね。急に電話しちゃって。今、大丈夫?」
「ああ、元気だよ。花奈ちゃんはどうだい?」
花奈というのは私の孫娘の名前だった。
風邪一つ引いたことがないと聞くが、孫の様子は気になるものだった。
「あの子は元気よ!遊び歩いてばかりいて…。それはいいんだけれどね。」
娘はそこでちょっと言いにくそうに言葉を切った。
「なんかやたらと忘れ物が多いの。いくら叱っても治らなくて…。そういうの、私はなかったでしょう?大丈夫なのかしら。」
娘のその言葉を聞いて祖母がそうしてくれたように、この人生が終わった後で孫娘のことを守ることになるのかも知れないと、ふと直感した。
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