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エピローグ
サンタは、空を翔けるイツキとニーナが見えなくなるまで、夜空に向かって手を振っていた。
イツキはニーナを送り届け、今夜のことは秘密ですよ、とニーナと約束をした。
ニーナも、きっと誰も信じてくれないわ、と笑い”秘密”にうきうきしながら笑った。
サンタは忘れていた。
子どもの頃の気持ちも、プレゼントを貰う気持ちも。
わくわくも、どきどきも、夢も希望も。
サンタの隣でイツキとニーナを見送ったムツミは言う。
「最初は仕方ありません。余裕が無いものです。
誰もが大人になり、一度は”子ども心”なんて忘れてしまうのです。
けれど、大人になったからこそ、プレゼントを贈る側になれるのですよ」
悪戯っぽい笑みを浮かべる相棒に、サンタは苦笑する。
「これからも、頼むよ。まだまだ、頼りないサンタだろうからさ」
「先代もそうでした」
「爺さんも?」
「先代も、プレゼント配りに疲れた時。孫のあなたの笑顔を思い出していました」
人間誰しも忘れてしまうことはあるだろう。
だからこそ、忘れないようにすること、忘れたくないと思えること、思い出せるものが、かけがえのないものなのだ。
サンタは、溶けかけの雪だるまを、スマホで写真に撮った。
――忘れたくなかったから。
そして、祖父が孫の自分の顔を思い出していたように。
自分も、またサンタとしてやるせなくなった時はこの写真を見直そう。
「良いんじゃないですか? あなたにはまだ孫どころか子どももいないですし」
ムツミが横からスマホの写真を覗きこんで言った。
「当たり前だろ、俺はまだ爺さんの歳まで行ってないんだから!」
少し慌てながら言うサンタに、ムツミはふふふと笑う。
「私たちのことも、頼ってくださいね。大丈夫、長い付き合いになります。
三人――一二頭と一人で、頑張っていきましょう」
ああ、とサンタが頷いた頃。
夜が明け、白みがかった空に、太陽が顔を覗かせた。
生まれたての、クリスマスの日の光を背に、イツキが空を翔けて戻って来た。
fin.
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