星空とコーヒー

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「また月塵による通信障害だったか。せっかくのコーヒーが冷めてしまったな」 アンダーソン博士はそうぼやきながら、ことも無げにカップに口づけた。彼は、新進気鋭の宇宙地質学者であり、一流の技師でもある。月面のロボットを遠隔操作して、ものの一時間ほどで復旧作業をすませてしまった。熟練の、芸術的ともいえる技だった。こういうとき、小さな子どもが父親を頼るみたいに、ぼくはこの人に絶対の信頼をよせているのだと思いしらされる。この美しくも無慈悲な宇宙の中で。 やっと手にいれた宇宙での仕事。奨学金を申請してまで宇宙物理学の博士号をとったというのに、なかなか希望の仕事が見つからず、もうあきらめようかと思っていた矢先だった。月面都市開発のための地盤調査を請けおった企業が、助手を募集していると知人に聞き、最後のチャンスとばかりに応募したのだ。専門とは少しちがうけど、とにかく宇宙に来たかった。調査員は三年の任期が終了するまで、ここ、月軌道上のステーションに滞在することになっている。
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