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壁の時計が、無機質な光で時刻を告げている。グリニッジ標準時2070年12月1日20時。天窓には、まだ半分くらい欠けた姿で、地球が青く輝いている。
「はやく帰りたいな」
あれだけ憧れていた場所にいるというのに、そんな言葉がつい口をついて出て、少しはずかしさを覚える。博士はぼくにやさしい目を向けてほほえんだ。
「あと二年半だ。それまで仲良くやろうじゃないか。どうだい? 今夜ぼくの部屋でいっしょに過ごすというのは」
そう言いながら顔をよせてくる。またこれだ。さっきまでの凛々しい姿は、どこへ行ってしまったのか。
「まったく博士は……。せっかくさっきはかっこよかったのに、残念だな」
「なに? じゃあ今のは取り消すよ。やり直させてくれ。コホン……。もう一杯コーヒーはいかがかな? 今度はぼくが淹れるよ。よく眠れるように、ウィスキーなんかも加えてね」
芝居がかった調子でそんなことを言い、ゆるしを請う子どもみたいな目でこちらをうかがっている。その様子がおかしくて、思わず笑ってしまいながら答えた。
「ええ。喜んでご一緒させていただきます」
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