ヒーローになりたい

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軽い足取りで会計を済ませると、まだ夏の面影の残る店外へと足を踏み出した。 駅前にあるカフェから家までの通いなれた帰路につく。 通いなれたということで、何を考えずとも足が勝手に体を運んでくれる。 だからこそ、思考を小説の展望へと繋ぐ事が出来る。 結末はどちらを選択しようか。途中、こういうイベントを入れるのも悪くないだろう。 あえてここで突き放してしまおうか。僕が主人公だとして、ここはどういう想いで、どういう選択をするだろうか。 浮かびあがるストーリーラインが、生き物ように呼吸しているのがわかる。 そうして、クリスマスの並木道のように、一面にイルミネーションを携えて、僕を誘っているようだ。 「待ちなさい!!」 そんな僕の幸せな思考を閉ざしたのは、そんな女性の怒声にも似た叫び声だった。 空に舞う風船と、それに手を伸ばしながら駆け寄ろうとする少年。 歩行者信号は赤色に染まっており、スピードの落ちないトラックが交差点へと近づいてくる。 その一瞬で察した。このままでは少年はトラックに轢かれてしまうだろう。 驚くほど冷静な頭とは裏腹に、俊敏に動きだした体。 間に合うか?いや、恐らく無理だろう。少年を弾き飛ばしたとして、きっと僕は避けられないだろう。 そんな思考を浮かべるも、それは運動神経にまで伝わらない。 ーーーヒーローになりたい あぁ。そうか。僕はまだやっぱり。子供のままだったんだな。 ブレーキの音が耳をつんざく。少年に手が伸びて押し出した直後、体に一瞬の衝撃。 あっという間に景色が変わる。コンクリートに叩きつけられたであろう僕は、ボンヤリてした視界で、無事に生を繋いだ少年と母親らしき人物の影を捉えると、重くなる瞼に委ねて視界をシャットダウンさせた。
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