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「鳩じゃありません。あの子の名前は、マークです」
一年一組の槇村冬樹は。あどけない顔で、それでもはきはきと私たちに話した。
飼育係で、特に亡くなった鳩を可愛がっていた生徒達が危ない。教師たちがそう目星をつけた矢先、飼育係を務めていた槇村少年が自宅マンションから飛び立とうとし、ギリギリとところで家族に捕まって保護されたのである。
少年は不満そうにしながらも、教師と先生達の前で事情を話してくれたのだった。
「マークは、とっても賢い鳩でした。ぼくたちのこと、いつも心配してくれてました。学校という、退屈で、窮屈な檻に閉じ込められてるみんながかわいそうだって言ってました。だから自分が死んで神様になったら、みんなを“ゆめのくに”に連れていってくれると約束してくれたんです」
「ゆめのくにって」
「ぼくは、ゆめのくにに行って、自由になりたいんです。だって、今のこの学校は、ゆめのくにじゃないです。ぼく、ゆめのくにがいいです」
少年の目は希望に満ち溢れていて、それがかえって異質だった。飼育係を担当し、マークと話したことがある子供たちはみんな、夢の国とやらに行く切符を貰ったのだという。
そして、行く方法を教えてもらった。好きな時に夢の国に招待して貰う方法を。
「でも、この学校が“ゆめのくに”になったら、みんな、ゆめのくにに行こうとしないと思います。先生、この学校を、ゆめのくに、にしてくれますか?」
子供達が、学校にどんな“夢”を求めているのか。私にはわかるようで、わからなかった。
ただ、夢の国、の切符を貰ったという子供はかなりの数に上るのは事実である。このまま私達が何もしなければ、子供たちは次々と夢の国とやらに旅立っていってしまうことだろう。そして、その責任を誰が取らされるかは明白である。
――いつから私は……学校で子供達を管理することんばかり考えて、子供達から“夢の国”を奪っていたんだろう。
再び職員会議は開かれるだろう。私達は、今度こそ考えなければいけない。
私達大人が見失っていた、子供にとっての“夢の国”が何であるのかについてを。
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