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そして、つい先日消えた五人目が、三年一組の長谷部めい。可愛い者が大好き、少女漫画やアニメが大好き、夢見がちな少女だった。
学年も、性別もバラバラ。ついでにいうと、男女で綺麗にローテーションされているわけでさえない。現状では一年生に犠牲者はいないが、これもあくまで“現状では”という話でしかなかった。
「全員が、メールとか手紙で“鳥になりたい”と残しているんですよね」
やや気弱な若い女性教諭が手を挙げた。
「鳥になりたいってことは、何かから自由になりたいって意味でも受け取れると思うんです。何か、悩みでもあったのではないですか?」
「子供達の悩みなんていくらでもあるでしょう。クラブ活動だの、授業についていけないだの、人間関係でうまくいかないだのいじめだの校則だのなんだの」
「校長先生がそんな投げやりな態度だから、生徒達に伝わってしまうのでは?」
「あのですね、どうしろっていうんですか。あたしは校長ですよ?一年生から六年生の全五クラスずつ、全部把握しておくことなんてできるわけないじゃないですか!」
「そりゃそうですけど、子供の悩みなんて大したことないみたいな言い方は……!」
熱意に溢れた若い男性教諭が校長に食ってかかる。そこは穏便にすませておけばいいのに、と私は少しだけ呆れてしまった。どうしてこう、若い奴らは空気を読んで大人しくしているということができないのだろう。校長先生の事無かれ主義なんかいつものことだし、そもそもここで幹部と揉めたら後々立場が悪くなるのは自分だというのに。
――でも、悩みがあったかもしれない、という視点は悪くないかもしれないわね。
何かから自由になりたい、という言葉を“鳥になりたい”と言い換えたというのはあり得る話だ。いなくなった生徒達はまるでタイプが違うので、まったく同じ悩みだったわけはないだろうが。勉強から逃れたくて“自由になりたい”も、学校が合わなくて“自由になりたい”も、悩みそのものは違っても結論は同じということになるのではないか。
「わ、私も筒井先生と同じ意見です」
若い女性教諭が、それとなく男性教諭を援護した。
「というか、いなくなった生徒達のことをみんなに聴いたら。実際に、悩んでいる子は多かったみたいですよ。例えば、一番最初に飛び降りた美倉君は学級委員をしてて……クラスの子たちの相談を受ける事が多かったみたいです。それで、この学校は校則が厳しすぎるからなんとかしてほしいって、担任の教師に陳情出してたって話で」
「え、そうなんですか?」
「ええ。彼が飛び降りるちょっと前に、クラスの友達がトレーディングカードを没収されてて……返して欲しいって相当先生に交渉してたみたいで。授業中に遊んでいたわけでもないのに、子供がお小遣いで買ったものを教師がなんでもかんでも没収するのはおかしいって。校則でも、具体的に書かれているわけじゃないのにって」
「確かに、そんなところまで規制するのは間違ってるな」
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