えがく

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 翌日、寿は学校を休んだ。僕は先生の言われるままに事情を話し、みんなに別れの挨拶をする。 「連絡先教えろよ!」 「大人になったときに寿も会えるようにしておくからな!」  太一と裕二の優しさが身に沁みる。 「ありがとう。できたらさ、学内コンクールの絵を寿に渡してくれないかな? いらないかも知れないけどさ……」  自信なさげに呟く僕の背中を裕二が叩く。 「いらない訳ないだろ? 誰がどう見たって謙介の一番のファンは寿なんだから」 「だからさ、ちゃんと絵は続けろよ? 寿もそうだけど俺も裕二も謙介には期待してるからな」 「ありがとう……」  昨日に続き、また涙を流す。本当は臆病を隠すために描いていた絵なのに、こんなに応援してもらえる。僕は本当にいい仲間に囲まれたんだ。 「何かあったら教えろよ? 行けなくても気持ちは飛ばすからさ!」 「そうそう!」  寿がいないからか、太一と裕二は一生懸命に盛り上げようとする。  本当にありがたい。でも寂しいよ。最後に寿に会えないなんて……。  そして十年が過ぎた。太一と裕二とは今でも連絡を取り合っている。だが寿とは全くだ。太一と裕二に言われたままに僕はずっと絵を描き続けた。それなりの評価も得た。それでも心に残る寂しさは消えやしない。ずっとずっと寿のことが引っかかっている。  今夜、同窓会をしようと太一が提案をし、僕は昔懐かしい町に足を踏み入れた。  太一と裕二が早くも待ち構えていた。 「よ! 謙介!」 「画家先生おかえり!」  完全に小学生のときのノリだ。つい笑ってしまう。なのに視線はもう一人を探してしまう。来るはずなんてないのに。  僕の様子を見て太一と裕二は目配せをする。 「ほらタクシー乗るぞ! 謙介、酒は?」 「僕はあんまり……」 「OK。実は俺らもからっきしなんだ」  太一と裕二はへへと笑う。相変わらずだ。  タクシーが僕らを運んだのは、小学生の頃に近所にあった街中華。 「まだあったんだ……」 「ああ。代替りはしたけど、相変わらずの旨さだぜ」  裕二が笑って暖簾をくぐる。何もかもが懐かしい。街中華で仲間で食事とか、まるで学生みたいだ。  暖簾をくぐった僕は目を丸くする。そこにはもう会えない思っていた寿の姿があった。 「謙介、遅いぞ」  小学生の頃と変わらない笑顔。つい泣きそうになる。 「寿……ごめん……」 「俺のほうこそ。ほら泣くな泣くな。泣き虫は変わらないな」 「うん……」 寿のいるテーブルに向かうより先に寿が先に僕のほうへ歩いてくる。 「それと忘れものだ。これを渡すかどうか十年なやんだよ」  寿が僕に手渡したもの。それは賞状だった。学内コンクール特選の賞状。 「寿、スゴかったんだぜ? 謙介引っ越したから選出から外すって言った先生に詰め寄ってさ。言うなって言われてたから言わなかったけど、やっぱり寿は謙介の一番のファンだよ」  太一の言葉に僕はやはり泣くのを我慢できなかった。 「寿ありがとう……。寿のおかげで僕は絵を続けられたよ。これからも……」 「ああ! もう! 辛気臭いな! 俺だって謙介にお別れできなかったの後悔してるんだよ! でもさ楽しい再会にしようぜ。今までの話聞かせてくれよ。太一も裕二も自分で聞けって十年言い続けてさ」 「ふふ。僕も自分で聞けって言われたよ。同じだね」 「ああ」  太一と裕二に促されて僕も寿も席につく。 「じゃぁ同窓会と再会と忘年会と謙介の特選に乾杯!」  裕二が音頭を取り、同窓会が始まる。これから僕は友達との十年を取り返す。その合図だった。 了
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