第15話 もう我慢できないよ

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第15話 もう我慢できないよ

 すっかりシロの具合もよくなり、歩くだけでなく走ることもできるようになった。  魔獣だからなのか、動物とは違いあまり散歩などはしたがらないシロに、健康のためだからとリーズは散歩に連れ出そうとする。 「(リーズっ! わたしはそんな散歩なぞ行かなくてもよいっ!!)」 「ダメっ! 運動不足になっちゃうでしょ?!」 「(魔獣に運動不足って……)」 「ほらっ! 早くいくよっ!!」 「(まあ、良いか。もうそろそろと考えておったしな……)」  リーズに抱えられてそのまま森まで向かう──  ニコラに一人であまり森にはいかないようにと言われているため、リーズはシロと出会った森に週に三日ほど通って彼を散歩させていた。  もちろんシロは散歩なぞ……と呟きながらブラブラと歩いて回るだけ。  それでも森の奥を気にして匂いを嗅ぐ仕草を何度かして、あとはリーズの木の実採りを見守る。 「(リーズ、その木の実は人間にはちと毒がありすぎる)」 「え?! 食べられないの?!」 「(ああ、すぐに死ぬわけじゃないが、10個ほど食べれば命に関わるだろうな)」 「そ、それは困るわね……」  そう言って、拾った付近にまた木の実を戻す。  リーズの横をするりと通り過ぎてそのまま赤い木の実を加えると、彼女の持っているカゴに入れる。 「(これは旨い。甘くておいしいぞ)」 「本当?!」  初めて知る情報を手に入れて嬉しくなり、ご機嫌な様子であたりを見渡す。  カゴに入れてもらった実と同じものを見つけて拾い、スカートで軽く拭いて食べてみる。 「……あまい」  ベリーのような甘さというよりも前にキャシーに振舞ってもらったプラムに似たような味だった。  そしていくつか拾ってカゴに収めると、シロのほうへと戻っていく。 「物知りだね、シロは」 「(お前よりは長く生きているからな)」 「何歳なんですか?」 「(乙女に年齢は禁句だぞ)」 「シロは乙女じゃないでしょ……!」 「(バレたか……)」 (やっぱり魔獣は長生きなのかな?)  なんてリーズは心の中で思っていたが、声に出すことはせずに優しく白い毛を撫でる。  気持ちよさそうにする彼を見て、自然と笑みがこぼれた──  森の出口に差し掛かった時、突然シロの足が止まったことに気づき、リーズは後ろを振り返る。 「シロ?」 「(ここまでだ、リーズ)」 「え?」  シロは出会った時と同じように大きな魔獣の狼の姿に変化する。  わずかに風が巻き起こり、リーズの髪がふわりと一瞬浮き上がった。 「(わたしは森に帰ってチビたちの面倒を見ないといけない)」 「チビ……?」 「(ああ、わたしが森を抜けると若い衆が不安がる。早く帰らなければならない)」  その言葉を聞いて瞬時に彼には”家族”がいるのだと理解したが、彼からは少し違った答えが返ってきた。 「(実の、ではない。森で住むものは皆家族のようなものだ。チビは私を慕う三つ子の猫だ)」  狼を猫が慕うと聞き、少し不思議な感覚に陥ったが、逆に言えば仲が良いということなのだと感じた。  と同時に彼はもう帰らなければならないのだとリーズは悟る。 「(さあ、別れの時間だ。世話になった。感謝している)」 「いいえ、あなたが元気になってよかった」 「(ああ、北の森は人間を襲う魔獣で溢れているから、そちらには行くなよ)」 「うん、ありがとう」 「(木の実をとるときはここにまた来るといい)」 「ありがとう、そうする」  別れの時にも自分を心配してくれているんだな、とリーズはあたたかい気持ちになる。 「ありがとう、シロ」  シロはその言葉を聞き、少し頷くとそのまま大きな遠吠えをして森に駆けて行った──  リーズが村に着いた頃にはすっかり暗くなっていた。 (少し遅くなっちゃった……)  木の実を入れたカゴを揺らしながら、急いで家の中へと駆けこむ。  さあ、晩ご飯の支度をしなければ、と思ったその時、リーズの腕が強く引っ張られる。 「──っ!!」  そのままリーズはソファへと連れていかれ、押し倒される。  口を誰かの手で押さえられてそのまま唇を首元に寄せられた──  そこでリーズは自分の身体を拘束する犯人がわかった。 「ニコラ……?」 「遅い」  ひどく低い声で囁かれた言葉にぞわっとするも、手つきはなんとも優しく愛おしいというような甘いもの。 「シロは?」 「……森に……帰ったの」 「そう、じゃあ今日からまた二人きりだ」  甘く艶めかしい声で吐息交じりに囁くと、そのままリーズの唇をぺろりとなめる。 「──っ!!」  頬を伝う手は大きくて角ばっている。  何度も何度も上下に往復しながら愛おしそうに撫でては、唇を使って遊ぶ。 「ニコラ……!」 「もう我慢できないよ。違う男とばかりいちゃついて……お仕置きが必要だね」  違う男というのがシロだと認識したときには、すでにまた彼女の唇は塞がれていた──
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