雨のち晴れ

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 今日は朝から雨が降っていた。天気予報に傘マークが付くだけで気分が下がるというのに、玄関から出て湿気を浴びるとさらに気分が下がる。ひどい時には頭痛までしてくるのだから、雨の日は憂鬱だ。  さらに天気が悪いと視力も落ちる。私はメガネを掛けているのでただでさえ視力が悪いというのに、どういう因果関係か曇りや雨の日はことさら視力が落ちる。事務職なのでパソコンを見続けなければならず、眼精疲労も相まって日々視力低下に貢献しているので、いつか失明するのではないかと不安を抱いている。  視力アップ方法があるのならぜひとも教えて欲しいものだ。  さて、私の通勤方法は電車である。家の前にバス停があるので駅まではバスで行き、そこから電車に三十分ほど揺られて会社の最寄り駅まで運ばれる。電車を降りて十分ほど歩けば小さな会計事務所が見えてくる。そこが私の職場である。  ちなみに私は税理士ではない。税理士の業務をサポートする税理士補助だ。弁護士でいうところのパラリーガルといったところか。税理士補助にもそんなカッコイイ呼び名がついてほしいとずっと思っていることは内緒にしておく。  税理士補助の主な仕事はクライアントの帳簿作成を代行する、記帳代行業務だ。クライアントから領収書や請求書などの書類を受け取って、取引の内容や勘定科目、金額などをパソコンの会計ソフトに入力し、会計帳簿を作成する。とにかく量が多いので集中力と根気のスキルが必要とされる。あとは素早さと正確さ。コツコツと地道にやっていく作業が得意な私にはうってつけの仕事だと言える。おかげさまでこの会計事務所で働き始めてもうすぐ五周年を迎える。  集中していると時間はあっという間に過ぎる。気づけばお昼休憩の時間だ。  雨はまだ降っていた。朝よりは小降りだが、空はどんよりと暗く、雲も分厚い。眼精疲労からくる頭痛なのか低気圧に関係する頭痛なのか分からない爆弾を抱えながら、お腹は空いているのでお弁当を平らげる。食欲さえあれば問題ない。食後はプリンを堪能して午後からも頑張ろうと自分を鼓舞した。  電話対応や接客対応、入力業務に追われながらあっという間に一日が終わる。基本的に残業はない。入社した当初は要領が分からず残業していたが、今は一日で終わるようにうまく調整ができる能力が身についたので定時で上がれることが多くなった。さすがに繁忙期になると残業せざるを得なくなるが、労働基準法には全く違反しない程度の残業であるので問題はない。  帰る頃には雨は止んでいた。しかも日中の暗さはどこへやら、西へ傾いた太陽が少しの出番でも爪痕を残そうとするお笑い芸人の如く、雲の隙間から顔を出して存在をアピールしている。ちょっと眩しい。こういう時は虹が出そうなものだが、あたりを見渡してみてもそのような大気光学現象は見当たらなかった。残念。  朝来た道を戻って家に帰る。小腹が空いて仕方がなかったので、駅まで行く途中にあるコンビニへ寄って焼き鳥を買った。タレにすると手がベタベタするので塩で。晩ご飯前に食べるのが良いのだ。なにが良いかと聞かれたらちょっと困るけど。  駅まで歩きながら焼き鳥を食べて、それから電車に乗って家の最寄り駅まで帰る。さらにそこからバスに乗って家の前まで運ばれたら、ようやく帰宅した感を味わえる。しかし脱力しそうになる身体に鞭打ち、地に足を着けてしっかりと帰路に着く。鍵を開けて玄関に入るまでが仕事なのだ。  カバンからガサゴソと鍵を探して開ける。玄関の内側に入り鍵を閉めると、ほう、と安堵のため息が出た。ようやく帰宅した。ただいま、そしてお疲れ私。  と、ここである忘れ物に気がついた。朝は必要だったのに帰る頃には不要になったもの。 「会社に傘忘れた……」  調べたら明日の朝も雨予報。  頭が痛くなってきた。 END.
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