34人が本棚に入れています
本棚に追加
KENTARO
無為に毎日を過ごしてきた。
自分の事に関しては。
シングルマザーの母親と、双子の弟、それにじぃちゃんばぁちゃんと俺の六人家族。祖父母はなかなか子供が出来なかったらしく、俺の母親を産んだのは高齢出産だったそうだ。孫の俺が産まれたのは二人が七十歳の時。その下の双子の孫守りなんて、すぐ疲れてしまうから、俺は学校の他は双子の面倒を見るのと食事作りの手伝いで毎日いっぱいいっぱいだった。
気がつけば、自分の趣味とか、好きなことが分からない人間に育ってた。
なんの目標もなく、楽しいことは友達に合わせて楽しくしてみせてるだけ。虚しいなと思う時もあったり、まぁ人生こんなもんじゃんて自分の中で悟ってみせたりして。
高校卒業後は就職かなって考えてたんだけど、母親が「そろそろ自分の為の人生歩みな。双子ももう自分の事は自分で出来るし。奨学金も利用させてもらうようだけど、まだ学びたかったら大学考えていいんだよ。勉強出来るんだから勿体ないよ」
母親は、一家の大黒柱で朝から晩まで働いてくれてる中、俺の事そんな風に見ててくれたんだなって思うと嬉しかった。
でも、そもそも好きなものがない。
迷った俺は自分が得意な教科が活かせそうな学科を担任と相談し、今の大学の学科に通うようになった。
一年次は都会の生活、大学、バイトに慣れるので精一杯だった。
そして二年次、少し余裕が出てきた日々の中、ソラくんを見つけたんだ。
講義が終わって、バイトまで少し時間があるから、散策がてら遠回りして帰ったあの日。
通りがかった公園でアイドルのデビューイベントが行われてる事に気づいた。どうせまだ時間的には余裕があったし、どんなもんだろと興味半分、暇潰し程度に覗いてみた。
そこで、ソラくんに出逢ったんだ。
彼が汗をかきながら、頑張って躍ってパフォーマンスしてる姿、男にしては高めの声、尖らせると嘴のような唇、くしゃっと笑って糸状になる目。赤い髪留めが彼の可愛らしい顔立ちを引き立てていて、とにかく全てに引き寄せられた。
あっ、俺はこの子に出逢うためにこれまで空っぽだったのかも、とまで思わせられたんだ。
最初のコメントを投稿しよう!