1人が本棚に入れています
本棚に追加
また仕事を辞めた。入社してわずか半年しかもたなかった。これまで職を転々としてきたが、1年続いたものは無い。
子供の頃からずっとそうだった。何をやっても落ちこぼれ。心から何かを楽しんだ事なんて一度も無い。
何の為に生きているのか…。このまま生きていたって、同じ事の繰り返しの様な気がする。僕は、寒空の下を当てもなく彷徨っていた。
ふと前方を見ると、すでに廃業したのであろうボロボロの店舗の前に、小さなテーブルを出し、怪しげな水晶を見つめる老婆の姿があった。どこからどう見ても怪しい。怪しすぎるオーラを出しまくっている。テーブルには、簡潔に『占い』とだけ書いた紙が貼ってある。不思議な事に、通り過ぎる人々は誰1人老婆の方を見ていない。あるいは見ないようにしているのか。はたまた、僕にだけしか見えていないのか。
僕は、吸い寄せられるように老婆の前に座った。
「3日後です…」
こちらからはまだ何も話していないのに、突然老婆はそう呟いた。僕の方には目をやらず、水晶を見つめたままだ。
「み、3日後?何の事ですか?」
「3日後、あなたのこれまでの人生の中で、最高の1日がやって来るでしょう。私の言葉を信じてくだされば、きっと幸せを掴む事ができるはずです」
最高の1日?幸せ?僕の人生には無縁だった言葉だ。こんな怪しい占い師の言葉を信じていいのか?そもそも、何の変哲も無い水晶を覗き込んだだけで何が分かるのか。普通なら、こんな胡散臭い言葉は信じない。
最初のコメントを投稿しよう!