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3日後、僕はワクワクとした気持ちを隠せないまま街を歩いていた。普通なら信じない占い師の言葉だが、残念な事に今の僕は普通ではない。人生のライン際に立っている僕にとっては、掴めるチャンスはどれだけ怪しかろうが掴むしかないのだ。
平日の午前中だけあって、街は働く人で溢れている。僕は、幸せはどこかと辺りをキョロキョロしながら歩いていた。その時、前を歩いていた会社員が何かを落としたのが見えた。拾って呼びかけようとするが、会社員は小走りで行ってしまった。拾った物は、折り畳まれた可愛らしい便箋1枚だった。広げてみると…
『いつも おしごと ごくろうさま
パパ だいすき』
おそらく小さい子供からの手紙だろう。字を間違えながらも頑張って書いたのか、所々消しゴムで消した跡もある。これは大切な物なのではないか?そう考えた僕は、思わず走り出していた。
しかし会社員の足は早かった。早い上に、途中でタクシーに乗り込んでしまったではないか。しかし僕は諦めなかった。絶対にこの手紙を渡さなければならない、その一心で追いかけた。途中、派手に転んで通行人の視線を一斉に浴びてしまったが、そんな事は気にしない。僕はひたすら走った。
運良く、タクシーが信号待ちで停車した。僕は、ゾンビのように窓にすがりつく。必死の形相で迫り来る男に会社員は凍りついていたが、そのゾンビの手に見慣れた便箋があるのを見つけると、窓を開けてくれた。
「こ、これ、落としましたよ」
会社員は、まさかという顔で便箋を受け取り、それが自分にとって大切な物だという事を確認した。
「これ、娘からもらった物で、僕にとってはお守りなんです。そんな大切な宝物を落としてしまうなんて…。わざわざ追いかけてきて頂けるなんて、何とお礼を言っていいか。これから大事な商談があるんです。これを見て改めて、勇気が湧きました。本当にありがとうございます!」
そう爽やかに微笑む会社員を乗せて、タクシーは去って行った。
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