赤い手袋

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 翼が私の方に近づいてきた。 「どうしたんだよ。朝練の時間だろ」  ほっといてほしいと思ったが、そう言うと悪いような気がして「さぼりたい気分なの」とだけ答えた。  翼がその答えを聞いて去ってくれると期待したが「立花、部長だろ。やばいんじゃないか」と言った。  私はしばらく黙っていたが「もう、部長じゃない」と答えた。 「昨日、部長は辞めさせられた。私じゃあ部がまとまらないってことでみんなの意見が一致してね。顧問もそれに賛成した」  感情的にならないようにどこか他人事のように言う。本当はのどで何かが絡まるくらい苦しい。 「なんでだよ。おれの目から見ても立花は努力していた。練習で声を出して頑張っていたし、自主練習しているのも見たことある」 「努力だけじゃだめなんだよ」  少し大きな声になる。だめだ。感情的になってはいけない。翼に気持ちをぶつけたところで何も解決しない。 「色々と努力はしたよ。部員全員の意見を聴いて、みんなが楽しく練習ができるようにしようとしたし、誰よりも努力してお手本にならなきゃって思った。でもみんなが求めていた部長じゃなかった」 ―みんなの顔色をうかがっている。 ―顧問のご機嫌をとろうとしている。 ―頼りない部長じゃ部はまとまらない。  話し合いで言われたことを思い出す。 「努力って人に認めてもらえなければ意味はないんだよね。努力に無駄はないって言うけど、あれって成功した人が言えることだよ。今の私にはそんな言葉むなしい」  私は自分の気持ちを落ち着かせるために少し笑った。翼の方は見ないで話したので翼の表情は見えない。
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