赤い手袋

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「家に帰って学校さぼっちゃおうかな」 「立花」 「何?学校に行けって言葉は聞きたくないんだけど」 「手袋どうした?いつもしてただろ。あの昔買った赤い手袋」  意外だった。翼は手袋のことを覚えていたのか。  幼稚園の時、私の家族と翼の家族で買い物に出かけた。母が洋服を見ていた時、そこで売っていた赤い手袋の模様がとてもおしゃれでかわいらしく好きになり、欲しくなったのだ。  私は母におねだりしたが、私の手のサイズに合わないと言った。その様子を見ていた翼のお母さんが「これは流行に関係なく良いものだから、大きくなった仁美ちゃんに似合うと思いますよ」と言ってくれたのだ。翼のお母さんはファッション雑誌の編集者として働いており、言うことに説得力があった。 「大きくなったら絶対、この手袋をするのよ」そう言って母は赤い手袋を買ってくれた。  中学生になった時、私はこの手袋を使い始めた。サイズもぴったりで使い心地も良く、寒い日でも手袋をすると明るい気持ちになれた。 「どっかに置き忘れちゃったんだよね。大切なものだから普段そんな失敗しないのに、冷静でいたつもりだったけど、どっかでショックだったのかな。部長を辞めさせられたこと。どこでなくなっちゃったのか覚えてない。お母さんにも翼のお母さんにも申し訳ないな。大切にするって約束だったのに」
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