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翼が私の方に近づいてきた。そして、いきなり手を握った。
「翼?」
「学校行くぞ。朝練は間にあわないけど授業には間に合う。それに」
翼は私の目を見た。
「手袋見つけなきゃいけないだろ」
その言葉は力強く、まっすぐと私の心に入ってくるようだった。思わず立ち上がった。歩き出しても翼は手を離さない。
幼いころはよく手をつないでいた。その時の翼の手はやわらかくて、大きさも私の手と変わらなかった。
でも、今は私の手をすっぽりと隠し、大きくて少しゴツゴツしている感じだ。
「さっき、努力は認めてもらえないと意味ないって言ってたけど」
翼が私の手を強く握りしめる。
「他の奴らがどう言おうと、おれがわかっていること忘れんな。大人しかった立花が部長に挑戦した。それだけでもすごいと思っていた。自分で自分のこと認めろよ」
こちらを見ずに少しぶっきらぼうに翼は言った。一言一言が私の身体にじんわりと広がっていく。
「ありがとう…」と小さな声で言う。これ以上、声を出すと色々なものがあふれてきそうだ。
そうだ、色は白と黒だけではない。私は私にあった色になれば良いのだ。そんな当たり前のことを私は忘れていた。
「手袋、絶対に見つけよう。落とし物コーナーにあるといいな」
「そうだな」と翼は答えた。
「でも、1日だけでも忘れてくれて良かった」
「どうして」
「仁美の手を握るにはあの赤い手袋は邪魔だったから」
翼の手が少しだけ熱くなったように感じた。
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