鳩羽色の憂鬱

1/4

74人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ

鳩羽色の憂鬱

 昔、ドラマで観た。子どもが家にお弁当を忘れて、優しいお母さんが学校まで届けにきてくれるシーン。大きな声で名前を呼ぶ母親に対して、反抗期の主人公が「教室まで来んなよババァ!」なんて叫んでいたっけ。  だけどそんなの、僕にとっては無縁の世界だ。なぜなら── 「すみません、鳩見(はとみ)の息子なんですけど、母はいますか?」 「ああ、ちょっと待ってね」  外から受付窓口のおじさんに声をかけると、おじさんはマイクに向かって母を呼び出すアナウンスをしてくれた。手持ち無沙汰になった僕は学生かばんを持ち直したり、事務所の壁に貼られたスローガンを眺めたりする。居心地が悪く、無意義なこの時間が嫌いだった。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

74人が本棚に入れています
本棚に追加