空高く舞う

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「鷹也すごいよ! 助走も速いし。さすがお母さんの息子だね」 「まあ、だてに毎日お弁当届けてないよ」 「失礼なっ! 最近は忘れてないでしょうが!」  母が僕をぽかぽかと殴る。確かに、母はもう5日連続でお弁当を忘れていない。玄関の扉に小さなホワイトボードを設置したのが効果的だったのかもしれない。家を出る直前、“弁当忘れるな!”の文字が嫌でも目に入るからだ。  母と一緒にアルバムを眺めたあの日から、僕たちはたくさん会話をするようになった。どうすれば二人が快適に生活できるか相談し、策を講じた。とは言っても、完璧な課題解消には程遠い。つい先週も、母は三者面談を思いっきりすっぽかしたところだ。 「表彰式を始めます。受彰者は集まってください」  アナウンスが鳴り響き、僕は表彰台へと上った。母が僕を見上げ、手をブンブンと振っている。僕は照れくささから、頭をポリポリとかいた。  きっとこれから、母と衝突することは何度もあるだろう。今は母を大事に思えていても、次回また何かを忘れられたら、僕は苛立ってしまうに違いない。だけど、今だけは。  仰ぎ見ると、そこには雲ひとつない晴天が広がっていた。それは、いつでもそこにあったのかもしれなかった。今日、母を連れていつかのハンバーガー屋さんに行こう。ふと、そんなふうに思えた。
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