鳩羽色の憂鬱

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 しばらくすると、敷地の奥にあるパン工場から母が現れ、駆け寄ってきた。「鷹也(たかや)!」へらへらと笑いながら僕に手を振る。人の気も知らずに、能天気な顔しやがって。喉元まで込み上げる怒りをどうにか飲み込み、母が家に忘れていったお弁当を手渡した。 「これで何度目だと思う? しっかりしてよ。僕だって朝の小テストがあるんだから」 「ああもう、わかったわかった! 聞き飽きたよぉ、耳にタコができちゃう!」  母はお調子者の外国人のように、肩をすくめて手のひらを上向きにした。やれやれと言わんばかりに。その動作も表情も理不尽さも、すべてが僕の神経を逆撫でする。梅雨の蒸し暑さも相まって、あっという間に苛立ちがピークに達し、爆発しそうになる。  受付のおじさんが哀れみの眼差しを僕に向ける。  やめろ、そんな目で僕を見るな。  居た堪れなくなり、無言でその場を後にした。「鷹也ってば!」母の呼びかけに振り返りはしなかった。“何か悪いことした?”とでも言いたげな、とぼけた顔をしているに違いないから。
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