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 その日の夜、二人で焦げくさいチーズケーキを食べながら家族アルバムを見た。早産で、僕は未熟児だったみたいだ。夜もなかなか寝付かず、人見知りで誰にも懐かない。母は相当苦労したようだった。  体の小さい僕が鷹のように強くてカッコいい男の子になれますように。  そんな思いを込め、“鷹也”と名付けたのだと母は言った。そして、その通り育ってくれてありがとう、とも。  僕と母の写真があふれ返る一方で、父の写真は一枚も見当たらなかった。家を出て行ったとだけ聞かされていた僕は、その真相を母に尋ねてみた。  母はぽつりぽつりと語ってくれた。  父は酒乱で、母に時々暴力を振るっていたらしい。 母はそんな父から赤ん坊の僕を守るため別れを告げ、このアパートに引っ越して、工場で働き出したのだという。 『母さんがそんなだから、父さんも出て行ったんだ!』  幼い僕が母に向けて放った言葉を思い返す。父は馬鹿な母に愛想を尽かして出て行ったのだと思い込んでいた。なんて残酷で浅はかな考えだったのだろう。『そうだよねぇ、ごめんねぇ』と悲しげに微笑む母の姿がまぶたに浮かび、胸が切り裂かれるように激しく痛んだ。  僕はずっと母に尊重されていないと思っていた。  僕が大切じゃないから誕生日にケーキを買い忘れたり、せっかく作ったお弁当を忘れていったりするのだと。  けれど、それを母に尋ねる勇気はなかった。母から決定打となる言葉を聞かされた時、ショックに耐えられる気がしなかったからだ。二人の間にそびえ立つ壁に気付かないふりをした。そうしているうちに壁はどんどん高く、強固なものになっていった。  母が優しい眼差しでアルバムを見つめている。余白が見えないくらいに並べられた僕の写真と、所狭しと綴られた母のメッセージ。それは僕のことを大切に思っていなければ、書けない量だった。 「これがはじめてのお遊戯会。こっちは遠足。これは運動会だね、お母さんお弁当忘れちゃってごめんね」 「いいよ、もう。ハンバーガー美味しかったしさ」  母は笑った。口の端にケーキの食べかすをつけたまま。僕は呆れながらティッシュを差し出す。その役割を果たせることが嬉しかった。
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