ドールハウス計画3

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ドールハウス計画3

 養子なんて考えたことはなかったけれどジならば構わないとオロネアは思った。  もう手のかからないところまでやれている子だし、そんな子が自分を母と呼んでくれるのも悪くはない。 「どうかしら?  アーティファクトには劣るかもしれないけれど」 「い、いえ、そんな!」  アーティファクトに劣るなんてそんなことはない。  後継者のいないオロネアの養子になるということは後々オロネアの全てを引き継ぐことになる。  最終的にはオロネアの人生を受け取ることと同じことなのだ。  アーティファクトの価値と単純比較することができるものではない。 「ですが……」 「分かってるわ。  男子たるもの自分で立身出世しなければいけないものね」  ウソでも冗談でもなく本気の提案。  だからこそ分かっていた。  自分が認めるような子ならばこの提案を断るだろうことは分かりきっていた。  ジも心惹かれる提案だとは思うけどそれを受けるつもりはなかった。  どこかのこの先の未来で功績を立てて、腰を落ち着けて貴族として悠々自適に暮らすことも悪くはない。  ただそれは今ではない。  もっと自由にやりたいこと、もっと自由に生きることを満喫したい。  まだ貴族になってもそれはお飾りでしかなく、貴族の作法のお勉強に邁進する日々を送る時を過ごしたくはない。  あとこれから先に何が起きるのかジは知っている。  貴族としての役割を求められることも当然にあるわけだ。  そんなしがらみゴメン被る。  そしてジは今の貧民街が好きだった。  グルゼイがいて、タとケがいて、リアーネがいて、ユディットがいて。  ボロボロだけど住み良い我が家があって、変な人がたっくさんいる。  日々を生きているそんな場所。  貴族になったらそこに住むなんてことは出来ないだろう。 「俺は貧民のジです。  ただもっと平和で、もっと自分に自信が持てるほどお金が貯まったらお願いするかもしれません」 「ふふっ、いいですよ。  出来れば私が生きている間にお願いしますね」 「では出来れば長生きしてください。  ……そうですね、俺ではなくエはどうですか?」 「エ?  あなたと一緒にいた子ね。  魔法の才能があるとは聞いているわ」 「エならオロネアさんを師匠としてもいいでしょうしオロネアさんの子供に求められるものも満たしています。  それに俺はエなら自信を持って勧められますし」 「……なかなか面白い提案ね」  それも悪くない。  当然エのことも調べていて、魔法の才能があって地頭も悪くない、性格も良く周りへの気配りができる子であると報告を読んだ。  ジとの関係も悪くない。  もしかしたらそのまま最後には結果的に同じくジが家名を受け継ぐことにもなるかもしれない。  人となりは分からないけれど今はもうジに信頼を置いている。  そのジの古くからの友人で、ジが勧めるのだから一考の余地はある。 「考えておきましょう。  ですけどエさんを養子にするからと言ってそれはあなたに対するお礼にはなりませんね。  また何か考えておきましょう」 「本人の意向もありますけど前向きにお願いします」 「ええ。  ひとまずあなたに家名をあげるつもりだったから何か困ったことがあったら私の名前を使いなさい。  どうせ引き継ぐ人もいないのだから好きに使ってくれても構いませんよ」 「ははっ、ありがとうございます。  お名前を汚さないように使わせていただきます」 「ダンジョンについても上手く説明出来るように考えてみます。  ご期待に添えるかは分かりませんが出来る限り残す方向で説得します。  つきましてどのようなアーティファクトがあるのか教えていただければ……なんて」 「気分がよければ教えてあげるよ」 「俺の希望としてはあとはちょっと魔法とか教えて貰えると嬉しいかな?」 「魔法ですか?  その制服はそのままお持ちになって構いませんのでお好きに授業を受けてもいいですよ。  もう体制が出来上がっていて私も最近は暇を持て余しているので個人的に教えてもいいですよ?」 「それも魅力的ですね」 「ふふふっ、お母さんと呼んでくれてもいいんですよ?」 「それも……ちょっと悪くないですね」 「あらあら……その答えは予想外でした。  それではもう遅いですし……私の家で食事でもどうですか?  アカデミーから近い所に家があるんですよ」 「それじゃあご馳走になろうかな?」 「僕は食べられないし、ここからも出られないからバイバイだね。  ジも時々でいいから遊びに来てよ!  今度はちゃんと僕も制服で出てくるから周りにもバレないと思うからさ」 「約束もあるからな、また来るよ」 「バイバーイ!」  手を振るエスタルと別れてジはオロネアの家で食事をご馳走になった。
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