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2回目の出会い1
「おい……おい!」
「グフっ!」
「起きろって! あっちの広場でお役人様が待ってるぞ!」
腹部に強い衝撃を受けて目が覚めた。
目覚めは最悪なのだが年を取ってからというもの長い時間寝れずにスッキリすることも少なかったのに気分は悪くない。
「なんじゃ、いきなり年寄りをイジメよってに」
「はぁ? お前年寄りでもねぇしなんだよ、その変な喋り方。いいから早く起きろって、行くぞ!」
小屋を訪ねてくる友人はもういない。何か用事があれば誰か来ることも考えられるも家の中に入ってきて寝ている老人を蹴りつける不躾な者は記憶にない。
それに聞こえる声は若い。自分の声も何故か若い。幼いほどに若く聞こえる。
女性の声かと一瞬思いもしたのだが明らかに自分の喉から発せられた声だ。
さらには安いけれどちゃんとしたベッドに眠っていたはずなのに何故か床ですらなく地面に寝ている。
少なくとも寝相は悪くなくベッドから落ちたことも一回もない。かけているのも暖まりもしなさそうな薄い、布団とも言えない布。
それなのに不思議と身体の関節が痛くない。
ベッドから落ちた上に床で寝ていたら目も当てられないほどに全身が痛むはずなのに。
寝ぼけた目を擦り顔を上げると段々とはっきりと見え始める。
目の前の少年にはどことなく見覚えがある。茶けた髪に一房黄色い髪が混じる貧民にしては比較的身体付きのよい少年。
粗雑で乱暴だけど仲間思いで真っ直ぐな奴だけど若くして戦争で命を落とした親友。
これは夢なのだと咄嗟に思う。
人のことを蹴り上げたというのに逆光の中に見上げる顔はニカッと笑っている。
「ま、まさかランノ……か?」
「誰だそりゃ? 俺はラだろ。そんでお前はジ」
鼻の奥がツンとする。
目の前の少年はラで自分はジだったことを思い出す。となれば間違いなく目の前の少年が考えていた通りの人物になる。
これは夢だろう。あの屈託のない笑顔をまた見れるなんて、こんなハッキリとまた会えるなんて。
「ほら、行くぞ」
「ちょ……まっ」
感傷に浸る時間もくれずにグッと肩に回して引っ張るように走り出すラ。
転びかけるも身体は軽くそのまま引っ張られるままに走り出す。
視点は低く足は素早く動き景色は流れていく。
肩から手を離して先を行くラに付いていく。周りの景色も懐かしく慣れ親しんだ道を走る。
走ることが楽しくて何かを考える間もなく目的地についたのかラが速度を落とす。
古くてぼろぼろの家々が昔たまたま火事でいくつか延焼して出来た広場。
ラの話を聞いて状況を見て、記憶が蘇る。
広場に集められたボロ切れを着た子供達と綺麗な服を着たお役人と数人の兵士、そしてそれを遠巻きに眺める大人。
ここはアンジュビッツ王国の首都レルマダイの北西部にある貧民街。
ジにはこれから何が起きるのか分かっていた。
地獄が始まったあの時が。
「これで全部か?」
「全てを把握しきれてはいませんのですべてとはいきませんがおおよそ集められたかと」
貧しそうな大勢の子供を前に役人が後ろに控える兵士に声をかける。
なんで自分がこんなところに来なくてはならないのか。
貧民街に赴かないといけない仕事なんて部下に押しつけてしまいたい。
国王直々のお達しでなければそうしていた。
平民ですら難しいのに貧民の数を把握するのはほとんど不可能なことである。
貧民の子供全員にと言われたから出来る限り集めたが全員とはいかないのは当然だろう。
出来る限り苦情が来る危険性や同僚が足を引っ張ってくる可能性を排除はしたい。
些細なことでも突っかかってきて出世レースの足を引っ張ろうとする連中の顔を思い浮かべると陰鬱な気分になる。
できるなら草の根を分けても全員探して来いと言いたいが現実的ではない。
いつまでも兵士に貧民街を駆けずり回らせるわけにもいかないし兵士の反感を買って良いこともない。
盛大にため息をついた役人が前に出ると注目が集まる。
兵士が静かにするように言うも貧民街の子供がそんなことで静かになることはない。
手を軽く振って兵士を下がらせる。兵士に対するやや尊大な態度を見るに役職が高めか貴族なのかもしれない。
一度広場の子供達を一瞥すると役人は咳払いをして指をパチンと鳴らした。
すると炎が立ち上げり一瞬にして周りは静かになって子供たちの役人に目が向く。
過激なやり方だが効果的。
役人が勅書を広げ読みあげる。
「この度我らが国王が新たなる法を制定された。
全国民契約法というこの法により今後産まれてくる子供は貴賤を問わず魔獣との契約を行うことが義務付けられ、またすでに産まれているものでも契約を行えること、保証する」
再び子供達がざわつきだす。
「この法に基づき、この貧民街で産まれた子供たちもまた対象となり、この度国が費用を持って経験を行うこととしここに集まってもらった。
これより契約のため移動する」
契約が何なのか、よほど幼い限りを除き子供でも分かっている。
ただ子供は子供。小難しい言い回しに役人が何を言いたいのか理解が追いついておらず、相談できる相手もいない。
隣の子に聞いても隣の子も同じ状態なので何も変わらない。収まらないざわつきに役人が顎で兵士に指示を飛ばす。
兵士に促されるように広場から移動させられ馬に繋がれた荷台に押し込められるように乗せられていく。
抵抗することなく付いてきてしまっているジもまた迷っていた。これから何が起きるか分かっている。
これは夢なのか、走馬灯なのか、幻なのか。
1つだけ違うのはこれから起こることを知っている、それだけである。
もう1つあえて言うなら今はもう契約に期待もしていないことも違うと言えば違う。
そうしている間にも馬は歩みを進め、平民街と貴族街のちょうど境目に存在する大きな建物に着いてしまっていた。
貴族も平民も利用する施設なためにこうして他の都市でも境目のようなところにある場合が多い。
契約場や竜殿と呼ばれるこの建物は大きな建物とその後ろの高い壁で囲われた野ざらしのスペースで出来ている。
貧民であるとまず足を踏み入れることのない建物。
本来なら建物の中で受付や医者のチェックを受けたり貴族なら寄付のお願いがあったりする。
今は手続きをすっ飛ばしてジを含めた子供達はこの広い修練場のような場所に通された。
天井がなく土が露出している壁で囲われた広い空間は町中にあるのにそう感じさせない異質な雰囲気がある。
便宜上契約室というらしいが室と呼称するのは無理があるように思えるほど青い空が見える。
契約室の真ん中には大きく魔法陣が描かれていて、そこで契約が行われる。
兵士の近くにいた子供が1人魔法陣の側に連れていかれた。
小さな魔法石を持たされ、指先をナイフで軽く切られて血を魔法陣に垂らして兵士の言葉を訳も分からず復唱させられる。
魔法陣が光を放ち、子供たちの視線をくぎ付けにする。
ジも最初は興奮したものだけれど2回目ともなればなんとも思わなかった。
やがて一層強く光り、魔法陣の中から何かが出てくる。
そう言えばあの子が一番最初だったなと魔法陣の光に驚く子供達の中でジは冷静に状況を見ていた。
記憶の通りに物語が進んでいく。ここまで来てしまえばもはや逃げる事は叶わない。
呼び出されたのはシルクバードと名付けられた青い羽を持つ小型の鳥類魔獣。
人の魔獣を勝手に分類して悪いが当たりか外れかで分けてしまえば外れになる。
魔獣契約とは古来ある程度の知恵と技術を持つが魔力が少なく力の弱い人間のためドラゴンが人間に授けた魔法である。
人間と敵対する魔物を召喚し契約することを可能としたこの魔法は今はなくてはならないものとなっている。
単純に魔物を使役出来るだけでなく人間に足りない力をも与えてくれた。
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