裏での取引2

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裏での取引2

 ジは2つのものを欲しがった。  レーヴィンとこの変な大剣である。  ただ1人に3つもあげるのはあげすぎ。  不平等になる。  だから取引したのだ。  ジはこの2つの剣を手に入れる代わりにエスタルの命を取らないこととダンジョンを残してもらえるように説得する。  結局子供しか入れず他の子供ではエスタルを倒すことが難しいのは分かりきっているので残す方向性で説得するのは難しくない。  悩んだけれどジはその取引を受けることにした。  なんてことはない取引だけどジが得られるものは大きいし、今後を考えるとアカデミーから輩出される卒業生が質を上げてアーティファクトを得られるのだからジにも回り回って利益がある。  アカデミーの全てを知るエスタルの信頼を得ておいて損なこともないからだ。  あと魔剣が欲しかった。  すごく欲しかった。 「俺じゃ無理だろうな。  だからリアーネを連れてきた!」 「はあっ!?  ちょ、こんなバカみたいなもん私に持てってのか!?」 「リアーネなら出来る!」 「何勝手に自信満々なんだよ!」  アカデミーに行くのに護衛なんて必要ないけどリアーネを連れてきたのはこの変な大剣を持ち帰ってもらうためだった。 「ほんと帰ってきてそうそう悪いけどリアーネしかいないんだ」  エスタルを見習ったキラキラ攻撃。  リアーネはジに下から見つめあげてお願いされると弱い。 「わ、わーたよ!」 「腰いわさないように気をつけてね〜」 「そんな年じゃないわ!」  リアーネは気合を入れると変な大剣に近づいて柄に手をかける。  少し力を入れてみて分かる。  これちょっとどころじゃなく大変だ。 「そんな目で見るなよ……」  主君の命令なので無理だとは言えない。  ただ振り返ったリアーネの目は無理だって言っていた。 「ふっ……やっぱりそうだよね」  正直な話エスタルもここまで変な大剣を運んでくるのに苦労した。  普通の人間であるリアーネに持っていけもしないだろうことは分かっていた。 「と、いうことで!  今回はこれをレンタルしちゃいまーす!」  そう言ってエスタルはどこからか手袋を取り出した。  革っぽいもので出来ていて手首のところにグルリと鎖が巻いてあり、そこから手の甲側を通って指先に鎖が伸びている。  子供だって着けないデザインだ。  エスタルが持ってきたということはこれも魔道具なのだろうとジは気づいたけれど何の効果を持つ魔道具かは分からない。 「オネーさんこれを着けてみなよ」 「私か?」 「リアーネ、着けてみて」 「分かった」  ジャラジャラとして着けにくいことこの上ない手袋をリアーネが着ける。 「それで持ってみてよ」  不思議とフィット感は悪くない。  鎖がじゃらつくこと以外は着け心地はいい。  良くて滑り止め。  リアーネは再び変な大剣の柄を握って力を込める。 「ええっ!」  重い。重たいけど持てる。  先程は全力をあげてもピクリともしなかった変な大剣が持ち上がった。  持った本人が1番驚いている。 「へへん、すごいでしょー?  巨人の力を手に入れられるっていう魔道具だよ。  今回特別に貸してあげるから後で返してね?」 「ありがとう、エスタル」 「持って帰れなきゃ取引不成立になっちゃうからね」 「この手袋今度返しにくるよ」 「いつでもいいから好きに使ってよ」 「じゃあ行こうかリアーネ」 「あっ、ちょっ……ちょっと待ってくれよ!」  持てるけど軽いものではなくかなり大きい。  肩に担いで持とうとしたけどすごい邪魔なので脇に挟んで抱えて持ってフラフラとジの後を追った。  ーーーーー 「むっちゃ目立つ……」  明らかな部外者がデカい金属の塊みたいな大剣を抱えていては目立つことこの上ない。  事前にオロネアにも告げていたのでアカデミーで止められることはなかったけど一回こっそり警備兵を呼ばれた。  町中でも目立つリアーネ。  元より身長が高く目立ちやすいのに変な手袋まで着けてるものだから横目に確認する人が後をたたない。  普段は特に視線なんて気にしないリアーネも向けられるの視線の多さに気まずそうだった。  リアーネがかわいそうなのでそそくさと貧民街に戻ってきたジは変な大剣をとりあえず家の前にブッ刺しておくことにした。 「おいおい……何だこれは?」 「わー、なにこれー?」 「大きいねー!」  変な大剣の重さも相まって地面に突き刺す時にズンと大きく揺れた。  グルゼイやタとケの双子が家から出てくると家の前の道の真ん中に巨大な剣が刺さっているものだから驚いていた。 「これは失敗作さ」 「失敗作だって?  何が失敗なんだ。  ここに置いたことか?」 「いやいやこの剣の銘、名前が失敗作なんだよ。  アダマンタイトっていう硬い金属で出来た大剣なんだ」  この大剣の名前は失敗作。  剣の根元に小さく刻まれたその名前はこの剣の全てを表している。  これは魔剣でもなくアーティファクトでもない大剣。  歴史に残ることができなかった成れの果ての武器である。  ドラゴンキラーを目指したこの武器は武器になりきれずにただひっそりと忘れられた存在だった。  ドラゴンを倒せる武器を作ろうとデカくて丈夫な武器を目指して加工の難しいアダマンタイトを巨大な剣の形にした。  けれど大きすぎるあまりに加工に限界を迎えた。  持ち上げられず、大きいので火も入れられない。  よくここまで形にしたものだと思うけどそれ以上形にできなかったのだ。  しかしアダマンタイトは希少で価格も高い金属なのでどこかに売るにも売れず、ただただ古代の遺跡の中で放置されていた。  それをエアダリウスが見つけて宝物庫に置いておいたのだ。 「こんなところ馬車が通るでもないからそれほど邪魔にもならんがどうするつもりだ?」  グルゼイの疑問も最もだ。 「……これはフィオスにあげるんです」 「はっ?」  ジはニヤリと笑って軽くウインクしてみせた。
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