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弱小魔物でも4
「私は私に出来ることがあるならやってみたいと思います。
ですけど……」
「ですけど?」
「お父さんがなんて言うか」
そりゃそうだ。
ワやニックスの時は面倒を見てくれる人はいても、それは正確には保護者とは言いがたいものであってジのところで働くかどうかは自由な判断に任されていた。
ワの面倒を見ているおばあちゃんなんかは貧民街で有名になりつつあったジ相手なら許してはくれたろうが許可の有無に関わらず最終的に決めるのは若くてもワである。
それが貧民ってやつだけど平民はそうはいかない。
大体ちゃんと親がいて、完全に子供に任せられることなどあり得ない。
ヒスにその意思があっても親がダメならダメなことも多いのである。
「もちろんちゃんと親御さんには話はする。
ダメだったら……何回か説得しに行ってみるさ」
「じゃあお父さんの許可がもらえたらってことでお願いします」
「分かった。
じゃあそうしよう」
ーーーーー
「かーわいー!」
「ねえ、触ってもいい?」
「えっと……優しくならいいですよ」
「わーい!」
「よしよし」
ヒスの父親の許可は思いの外あっさりと得られた。
ヒスの家は古書店をやっていた。
本を買って読むような人は新品を買うので古本にはあまり手を出さない。
古本が必要なぐらいの収入の人はあまり本を読まないという微妙な位置にいるのでそんなに儲けていないけど生活に困らないぐらいは稼いでいた。
いきなり降ってわいたヒスを雇いたいという話にヒスの父親は懐疑的な目をジに向けた。
不快感も何もなく当然の行為である。
細かいことが言えないのでざっくりとした内容だけを伝えたのだから不信感もあるだろう。
考える時間が欲しいと言われて数日後にヒスからヒスの父親から許可が降りたと伝えられた。
一応商人の端くれなのでツテを使ってジやフィオス商会のことを調べたらしい。
訝しんでいたのが一転むしろ雇ってもらいなさいとなった。
ということで新しく仲間になることになったヒスを家にお招きした。
本当なら契約をするのに商人ギルドなりのちゃんとした場所でやるべきなのだけどジは今注目度が高すぎる。
クモノイタの秘訣を知りたい人とか今後ジが何をするのか知りたい人がジの行動に注目している。
貧民街にもおそらく金で雇われた貧民のスパイはいるけど知らない人やちゃんと教育されたような人は目立ってしまう。
ジの知らない人や知っていても突然近づいてくる人は警戒されるので出来て遠くから眺めるぐらい。
欲しくてもろくな情報も入ってこないだろう。
顔見知りが多いが故のセキュリティである。
そこにヒスを呼んだとしても新しい友達としか見られない。
ビジネスパートナーだとは誰も思わない。
貴族的な人を呼んだら目立つだろうけどヒス1人が来たぐらいでは目立った情報にもならない。
家にはメリッサも呼んである。
簡単な紹介も兼ねて2人を会わせておく。
自己紹介を終えて出したヒスの魔獣のミュシュタルのお披露目となった。
小柄なヒスと同じくらいの大きさのトカゲの魔獣。
灰色っぽい肌をしていて意外とつぶらな瞳が緊張したようにみんなを見回した。
怖いとか気持ち悪いっていうリアクションも覚悟していたヒスだったがたまたま休みで家にいたタとケがミュシュタルを見て目を輝かせた。
ヒスの許可を得て優しくミュシュタルを撫でる。
「あっ、背中は危ないので顔にしてください」
「わわっ!」
見た目よりも滑らかな肌を撫でてあげるとミュシュタルが気持ちよさそうに目を細めた。
その時突如としてミュシュタルの背中から火が吹き出した。
「だ、大丈夫ですか!」
「う、うん。
トカゲさんは熱くない?」
「ミュシュタルは大丈夫ですよ。
気持ちよかったんですね……早く言っておくべきでした」
「ふふ、私たちのてくにっくがすごいからだね!」
気を許した相手には不思議と熱くない変な炎だけど誰に気を許しているかは炎に触れてみないとわからない。
完全にタの手は炎に触れたように見えたのに火傷していないということはミュシュタルはタとケを気に入ったのだ。
「その魔物はファイヤーリザード、でよかったかな?」
「は、はい!」
「なら、俺が探していた通りだ」
ニヤリとジは笑った。
ファイヤーリザードは背中が燃えているトカゲの魔物という知識があって、背中が燃えてないので違うかと思ったけど常時燃えているものでもなかったようだ。
「全部を話す前に……契約だ。
雇用契約と特許の契約」
「と、特許の、契約……?」
「そうだ。
これから君には俺が持っている特許を使った商品を作ってもらおうと思う」
「え、ええええ!」
ジは事前にフェッツに頼んでプロに作ってもらった契約書を取り出した。
色々と条項が書いてあるので少し分厚めの契約書が2つ。
1つは今後ヒスがフィオス商会で働くに当たっての条件とか色々なことが定められた雇用契約書。
もう1つはジが持っている特許に関しての秘密保持や利用に関する契約書であった。
なんで特許なんて話が出てくるのかヒスは理解できなかった。
特許という制度は知っている。
色々すごくて商人ギルドが技術の発展のために守らせる非常に大切な約束事であるぐらいの認識だけど。
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