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2回目の出会い4
「ごめん、つい気が動転して。久しぶりだね、エ」
「う、うん、落ち着いたなら……いいけど」
1発ぶん殴ってやろうかなんて思っていたエだったが少し寂しそうな笑顔で真っ直ぐに目を見られてそんな気も失せた。
何があったか聞きたくても聞ける雰囲気じゃなく許すしかない。
久しぶりとか変な言い方も気になった。
そんな状況でも契約は進んでいっていたので契約にエを送り出してラの横に行く。
「取り乱しちゃってごめんな」
「俺こそ、なんて声かけたらいいか分かんなくて……」
ラは気まずそうに頭をかく。
ジは泣き尽くしてスッキリして晴れやかな気分だったが泣き腫らした目を見てジの気分がいいなんて思う人はいないだろう。
すっきりはしたのだが今は自分のしでかしたことに恥ずかしい気分になってきた。
人前で大泣きした挙句感極まって女の子の抱き着いてしまった。
エの性格上すぐに離れるか多少殴られるぐらいはすると思っていたのに何もされず何も言われなかった。
ぶん殴ってくれたら収まりもついたのに何もないので気恥ずかしさだけ残っている。
「お、俺さ、きっといい仕事に就けると思うんだ。だからさいっぱい稼いでお前も養ってやる!
貧民街のみんなももうちょいいい暮らし出来る様にしてやるからさ、元気出せよ」
今聞けばある種の告白、プロポーズにも聞こえるラの言葉。
その昔、記憶の中でも同じように言われたジはラの言葉を同情や憐れみと捉えて拒絶した。
ラはただ恩返しがしたいだけでまだ子供がゆえに言葉足らずでこんな言い方だけど親友を元気付けたいのだ。
ラは本当に支援してくれていたしジはそれを受け入れられなかった。
冷静に見ればラは言葉を選んで必死に親友を慰めようとしている。そんな必死さが愛おしくて有り難くて自然と笑顔になる。
「よろしく頼むよ、ラ」
今回は過去と違う。親友の純粋な善意にちゃんと向き合える。
「お、おう!」
あっさりと受け入れられて逆にラがたじろぐ。
嘘をついたつもりはなくても変なことを言った自覚はある。
それを笑顔で頼むと言われて不思議な約束をしてしまったと気づいた。
過去は色々とラに貰った。
何度も会いに来てくれて、色々と持ってきてくれた。
けれど貰っているばかりでは申し訳ない。己も変わらなければいけない。
ラにも何かあげられるように努力しようと誓う。
「な、なんだこの光は!」
この日一番の魔獣は神獣と格付けされる魔獣、眩いばかりの光の中から現れた真っ赤なフェニックスであった。
契約場の外からでも見えるほどの光が漏れて魔法陣の真ん中に鎮座していた
大きく分類すれば鳥種の最高峰。再生と炎の能力を持つ凰(おおとり)。
魔獣でもあるし霊獣ともいわれる荘厳な生き物。
おそらくこの日どころか国の魔獣を見ても最高峰と言っても過言でない。兵士は槍を構えることすらしないでフェニックスに見入っている。
「えっと、えへへぇ〜すごい、でしょ?」
呼び出したのは困ったように笑うエであった。
フェニックスが動くと火の粉が散る。
グッと頭を下げるとフェニックスはくちばしをエの頬に軽く当てて頬ずりするように服従の意を示した。
エもくちばしを撫で返す。
次に待つの子がまだまだいることをだれもが忘れた。
いつ見てもフェニックスは美しい。
伝説に近い存在が目の前にいることは2回目でも信じられない。
「ど、どう、すごいでしょ!」
全員の注目を浴びて兵士の誘導もなくて困り果てたエが場を脱出するため冗談っぽくジたちに駆け寄ってきた。
当然フェニックスはエについてくる。
サンダーライトタイガーの時よりも大きな円ができる。
近づいてきたフェニックスはなぜなのかジを見て、頭を下げた。
理由が分からず慌てるジ。とりあえずジも頭を下げ返す。
サンダーライトタイガーがラの前に出る。
フェニックスを前にしても臆さず契約者を守ろうとしている。
勇気のあることだ。
サンダーライトタイガーの経験がどれほどの物なのかジには分からない。
もし経験豊かなサンダーライトタイガーでフェニックスが若ければあながち敵わないものでもない。
「す、すごいな」
ラも驚きを隠せず呆けたようにフェニックスを眺めている。
「そうでしょ~、あんたのトラとか……その、比べ物になんない…………」
あまりの出来事にエはすっかりジの魔獣のことを忘れていた。
安易に自慢してしまい言葉尻がすぼむ。
「スライムも悪いもんじゃないぞ」
「クルゥ」
ジの言葉に反応したかのようなタイミングでフェニックスが鳴く。
なんだか同意してくれているみたいだ。
ついでにフィオスも腕の中で跳ねる。
泣きはらした顔で何を言っているんだか、エはそう思っていた。
スライムに満足した顔にはとても見えない。
申し訳なさそうな顔をするエにジは困って頬をかく。
魔獣としての能力や格式はフェニックスと比べて論ずるまでもない。
しかし大切なのはいかに魔獣と関係を深め、魔獣の能力をどう応用していくかだ。
……仮にエが怠けて、ジが努力しても逆転するのは難しいけれども。
その後はパッとしない結果が続いた。
それでもラやエが飛び抜けすぎていたので目立たなかったがそれなりの人は何人かいた。
とりあえず集まった子供の契約が終わり、口頭で魔獣に関する注意や必要な知識に関する指導を受けた。
本当はちゃんと学ばなければいけない内容なのだが文字も読めない、大勢いる子供には口頭で簡単に説明するしかない。
良い魔獣を呼び出したラとエを含めた何人かはその後さらに役人に呼び出されて何か話をされていた。
内容は分かっているから心配はしていない。
ジを含めた他の子供達は他に用もないのでまた荷台に乗せられて貧民街に返された。
解散の時ジがスライムと契約したことは皆知っているから口々に慰めの言葉を言って別れ、ジは笑顔でそれを受け流した。
貧民街に着くとみんな散り散りに帰っていき、ジも自分の家に帰る。
貧民街でも比較的平民街に近いところにあるボロボロでも風と雨は防げる小さい一軒家。
ずっと前はこの辺りも普通の平民街だったが大きな戦争の時に貧民街となり、この家もジを世話し、ジが世話していたじいさんが住んでいたものだ。
じいさんに家族はおらず、亡くなった後はジがそのまま家に住むことになった。
家は小さいが子供の手には余るのでたまたま近くで路上暮らしをしていたラやエをジは受け入れた。
この2人も毎日帰ってくるのではなく日銭を稼ぎにいったり別のところに泊まったりもしているがやはり主な活動拠点はジの家である。
ジは床に敷いてある布団に体を投げ出した。
以前はベッドがあったのだが壊れてしまって、ベッドの木材を壁の修理に使って以来床に寝ている。
契約は待ち時間が長くて外はもう日が傾いて落ちてきている。
貧民の子供を集めるのだ、飯ぐらいくれてもよいのに。
晩ご飯のことも考えなきゃいけないのに泣きすぎたせいか、はたまた子供の体に体力が少ないのか動きたくなかった。
手を動かし傍らにいるフィオスを撫でる。それだけで喜びの感情が伝わってきてジも嬉しくなる。
「夢じゃないのか」
走馬灯でもない。
意識はやたらとはっきりしている。ほっぺたをつねってみても痛みはある。
そもそも目を覚ますのにラに蹴り起された時も痛かった。
流れは記憶していた通りなのにフェニックスに頭を下げられた記憶はない。
大泣きもしなかったのでそうしたところも異なっている。夢にしては反応がリアルすぎる。
これが夢でないのなら年寄りまでの記憶を持ったまま昔に戻ってきたと考えられるが何が起きてこうなったのか分からない。
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