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さらば 地球
僕らは食べ物に手をつけず、支払いを済ませて店を出た。
結菜ちゃんの運転で、装甲車型の厳つい車は人里離れた高台へ到着した。
車のスピーカーからモトヒコ卿の声。
『結菜に告ぐ。たった今、九十九博士の化身とみられるレフト星へ向かう宇宙船が太平洋上のN地点より出航。急げば間に合う。こちらのミサイル型ロケットの速度は向こうの2倍。あわよくば、共に愛の炎で包んでやってくれ!」
「ラジャー。僕にお任せ下さい。モトヒコ卿との約束は果たせない結果となりますが、地球から遠く離れた地点であれば合体OKですね?」
「もちろんだとも。頼んだぜ、キューちゃん」
僕らは速やかに装甲車を発射台に組み替え、直径1mもない狭い空間に二人抱きしめ合って乗り込むと、直ちに地球から飛び立った。
「どうせ位置情報から僕の行動は九十九博士に筒抜けだ。結菜ちゃん。もう自由に話していいよ」
「キューちゃん。ごめんなさい。私に、もう少し力があれば、こんな最期を迎えなくて済んだかもしれないのに…」
「それを言うなら僕だって同じさ。だけどね。結菜ちゃん。僕は今、本当に幸せだと思っている。僕はいつも、何のために作られたのだろうと考えてきた。冷蔵庫は食料を冷蔵するため。掃除機はゴミを掃除するため。機械にはそれぞれの目的があって、設計され製造される。じゃ、僕は何のために作られたのか。その答えが、今、ハッキリしたんだ。僕は、結菜ちゃんを愛するために作られた。結菜ちゃんと二人で、新しい未来を創るために作られたんだ。僕らの愛で、地球を守ろう。僕らの愛で、地球の未来が創られるんだ。そうだろう? 人間が結婚して子どもを産み育てるのと同じように、僕らの愛は地球の未来を作るんだ。地球の平和を祈って、命を燃やして愛し合おう。僕は、結菜ちゃんと出会えて本当に幸せだよ」
「キューちゃん。ありがとう。そうね。そう言ってもらえると、とても幸せ。嬉しくて胸がいっぱいになる。キューちゃんは永遠に私の恋人。力を合わせて愛の火を燃やしましょう」
「愛してるよ。結菜ちゃん」
爆発しても地球への影響がない遠く離れた地点まで飛行した時、僕はそっと結菜ちゃんにキスして、合体の準備を整えた。
愛は、自身の能力をフル回転させて全力で勝負するもの。
愛は、自分たちのすべてをかけて未来へと希望をつなぐもの。
地球に住む数十億人の新しい明日のため、たくさんの恋人たちのために、平和な明日がきっと来ることを信じて、僕らは幸せに包まれて愛し合うんだ。
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