クライマックス

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クライマックス

結菜ちゃんのペンダントから、モトヒコ卿の声が響いた。 『20分で攻撃目標に到達』 「ラジャー。戦闘準備完了」 僕は、結菜ちゃんに振動を与えぬよう細心の注意を払って適確に静かに合体した。 突如、九十九博士の声が聞こえた。 僕のへそに仕掛けられた高感度カメラは受信機にもなっていたようだ。 『英愛九号。さすが私の作った知能。見事な裏切りよのぅ。だが、オマエたちには大きな誤算がある。私の頭脳は既に電脳に置き換えられている。宇宙船を誘導しているのは私のコピーの一つに過ぎない。命がけでコピーを爆破したところで地球の未来は保障されないぞ。わっはっはっはっは…』 すると一段と大きなモトヒコ卿の声が狭い空間に響き渡った。 『残念なのは九十九博士。あなたの方です。故郷(ふるさと)のレフト星にお帰りになった時、何かの事情で宇宙船に組み込まれた博士のデータが破損していてはお困りかと思い、コピーしたデータはすべて宇宙船の保管庫に丁重に収納させていただきました。現在地球に、あなたのデータは一片たりとも遺っておりません』 「博士のデータは・・・?! ・・・えっ?!」 結菜ちゃんは、激しく動揺した。 おそらく、自分のデータは遺っているのではないかという期待が胸をよぎったに違いない。 もちろん僕も、動揺しなかった、と言えばウソになる。 だが僕は、あえて質問しなかった。 人間が、仮に転生できるとしたところで、この先の命に夢を託し、今、生きている命を疎かにすることなどできるものだろうか。 今、生きている心と意識を大切に、精一杯、自分の目標の実現に向けて努力することが命の美学ではないのか。 今、できる限りの力で大切な人を胸に抱きしめることが愛の真実ではないのか。 僕は純粋に、地球の平和のために命を捧げたいと思った。 そうした祈りこそが、僕という意識の最期を飾る快感とさえ感じていた。 僕はしっかりと結菜ちゃんを抱きしめて、優しくささやいた。 「結菜ちゃん。僕たちの一番大切な目的を思い出して。 僕たちは、地球を救うためにここまで飛んで来たんだ。惑わされるな。たとえ博士のデータがどこかに残っていたとしても、きっとモトヒコ卿が黙っちゃいない。さあ、安心して僕の腕の中で夢を見てくれ。平和な地球に新しい明日がくる。僕らの愛は、あの美しい地球を守るために、ここで完璧に燃やし尽くそう。九十九博士が渾身の技術で僕に与えてくれた快感に浸りながら、僕らは最高のクライマックスを迎えよう」 「キューちゃん。私、幸せよ。誰よりも、誰よりも…永遠にキューちゃんを愛してる…」 僕は、時計を見ながら、僕の中で発生した核分裂反応で発生する放射線と超高温、超高圧を利用し、結菜ちゃんの機関に眠る重水素や三重水素(トリチウム)の核融合反応を次第に誘発していった。 「ぁあああ あったかい 熱い 愛してるわ・・・キュウちゃん」 「結菜・・・」 グハッ! 僕の体の底から莫大なエネルギーが放出されっ…!
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