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英愛九号
3ヵ月前。
ヒトに見える最低限の基本パーツが仕上がった時点で、僕に最初に課せられた命題は
『人間の男性として結菜ちゃんに話しかけ10分以上バレないこと』
だった。
僕は作業服を着て、名刺を差し出しながら結菜ちゃんに話しかけた。
「こんにちは。自動ドアの点検でお伺いしました英愛九号と申します。お忙しいところ誠に恐縮ですが、自動ドアのスムーズな開閉を確認するため、3分程ご協力いただけませんか?」
「英愛さん? 珍しい苗字ですね・・・私にできることなら協力させていただきます」
「自動ドアがヒトを感知して開閉する領域が適正であるかどうか、実際、こちらのドアの前にお立ちいただき、ご意見をお聞かせいただけますか」
そんな会話から始まり点検作業を行いながら、僕は見事、10分以上、結菜ちゃんに人間男性として話しかけることに成功した。
よかった!
正体がバレたら、その時点でバラされてしまう運命だ。
九十九博士の用意してくれた名前が『英愛九号』という時点で、博士が僕にあまり期待していないのだということは見え透いてる。
もうすこし平凡な人間らしい名前を考えて欲しかった。
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