なぜ快感か?!

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なぜ快感か?!

「本を読め!」 と、九十九博士にはドヤされるが、僕には血も涙もなく、痛みや快感等も未だ十分に理解できていないため、文字だけの情報で人間の具体的な状況を把握することは困難だ。 「くだらない番組ばかり見てないで、専門的な知識を集積しろ!」 と博士は叱責するが、僕は博士の出す命題をクリアするために必要な専門知識を集積している。 すなわち人間男性として結菜ちゃんと仲良くなり、信頼を得てデートし合体するために必要な専門知識は、恋愛ドラマやポルノ映画を見るのが一番の学習だ。 僕は、僕というの存続をかけて真剣に学習を続けた。 「破壊されたくなければ、すべての命題をクリアすることだ」 九十九博士も、モトヒコ卿と呼ばれる助手も、口癖のように、毎日そのセリフを繰り返す。 モトヒコ卿は、九十九博士より少し若い。 自称『九十九博士の小手先』というだけあって、僕の指の動きの不具合や、合成皮膚の傷の修復程度ならチョチョイのチョイと直してくれる。 だが、僕が一番気にしている、体毛が全くない件に関しては 「そんなことが簡単に改善できるなら、こんな研究所で働いてねぇ〜ヨ」 と始めからサジを投げる。 九十九博士に同じことを相談すると、答えはいつも決まっている。 「オマエの最重要課題はだよ。そもそもオマエの身体は、重水素化リチウムと中性子発生装置でエネルギーを作り出している。そんなオマエに自らのエネルギー源と何の因果関係もない体毛を移植する意義などあるかね?人間の肉体は脆弱なために体毛で保護されている。しかしオマエの身体はゲノム編集した象亀の甲羅で覆われている。そもそも。体毛の有無など性的な快感に何の影響も与えぬはず。AIのオマエにとって性という概念は謂わば絵に描いた餅。生殖行為そのものが自己の存続に何ら関わりを持たないお遊びに過ぎないだろう。だが私は、オマエというAIを人間そのものにどこまでも近づけたい。私はオマエに、生殖行為における真の快感を発動させたい。それがオマエの最終にして最後の命題なのだ」
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