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偽りのクリスマスリース
折り畳み式のローテーブルを窓辺に運んで、周囲に新聞紙を敷き詰める。ナイロン製のエコバッグの中から、買ってきた素材を取り出してひとつひとつ並べていく。まずは、焦げ茶色の小枝がドーナツ形に組み上がったリースベース。自分で組むことも出来るけれど、そこまで念を込めるつもりはないから、既製品で充分。次に取り出したのは、松ぼっくり。定番の短い円錐形と、小ぶりの紡錘形の二種類、合わせて六個選んだ。それから、プラスチックで出来た作り物の赤い木の実。アクセントになるグリーンには、松葉の枝先を六束。これもフェイクだけれど、生より使い勝手がいいし、最近は本物と見紛うレベルのものが簡単に手に入る。メインのオーナメントは、結び目の下に小さなベルが二つ付いた真っ赤なリボンにした。最後に――私は作業用エプロンのポケットを探る。指先に当たる固い感触を摘まんで、テーブルの上に置く。楕円形のどんぐりがひとつ、コロリと影を落とす。
待ち合わせの時間まで、まだ六時間ある。今から作って持って行っても、充分間に合う計算だ。
細く窓を開けると、冷たい風が一陣吹き込んで肌を刺す。微かにチキンの焼ける芳ばしい香りがして、強張った頰が緩む。このマンションのどこかで、今夜のホームパーティーの準備が進んでいるのだろう。我が家は外食だけれど、来年は家族団欒、手料理で過ごすのも悪くないかもしれない。
「始めますか」
呟いて、どんぐりを手に取る。きっちりと帽子を被ったままの赤茶色の一粒を新聞紙の中央に置き、金色の塗料を360度まんべんなく拭きかける。どんぐりは疾っくに乾燥しているから、小一時間程で塗装も落ち着くはずだ。色味が薄ければ重ね塗りすればいい。人工的な輝きを纏ったどんぐりを、新聞紙ごと風通しの良い場所に移動させてから、残りの素材を接着道具でリースにくっつけていく。三時間もあれば、特製クリスマスリースが完成するだろう。
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