忘れ者

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◇  果てしない壁が広がり、右にも左にもそれが続いている。永遠とも思えるような気がした。その中にぽつんと扉が一つだけある。なんの変哲もないただの扉。  このトビラがセカイへの入り口。  忍はそのドアノブを握り、セカイへのトビラを開けた。  眩い光が彼を包み込み、一瞬だけ目をつむってしまう。  目を開けたとき、そこにあったのは遊園地だった。  観覧車が遠くに見え、メリーゴーランドがゆったりと回っている。ジェットコースターは勢いよく動き、空中ブランコが花を広げたように回り続けている。 「ここは?」  忍は驚きながらもその園を歩いていく。 『忍、無事セカイに入れた?』  透子の声が聞こえる。案内人(ナビゲーター)としてコンビを組む彼女は忍にとってはなくてはならない存在だ。現実世界では意識を失っている忍を介抱しながらも、対象者のことも気にかけている。セカイセンニュウした忍と会話ができるのは彼女しかいない。   「ああ、入れたよ。ここが柚葉(ゆずは)ちゃんのセカイなんだな」  母親から聞いた少女の名を呼びながら忍は辺りを見渡す。どこにでもありそうな遊園地。ただ、人の気配はない。乗り物だけが一人でに動いている。 『どういうセカイ? 何があるの?』  透子にはセカイの映像が見えていない。忍は会話だけで状況を伝えた。 「普通の遊園地。でも人はいない。係員の姿も全然。空はどんよりしていて、昼間のはずなのになんだか暗い」 『柚葉ちゃんの姿も? たぶんどこかにいるはずだと思うけど。探してみて』 「うん、わかった」 『でも慎重にね。危険を感じればすぐに戻ってきて。セカイでの怪我は現実に反映されるんだから』 「ああ、わかってる。気をつけて探してみる」
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