忘れ者

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「……今日は一旦帰ります。一日に何度も人のセカイへセンニュウするのは柚葉ちゃんの心に負担がかかり過ぎるので。怪者のことは心配しなくても大丈夫です。まだセカイでの柚葉ちゃんは意識がはっきりしていたので。明日また来ます」 「よろしくお願いします」  深々と頭を下げて玄関から見送られた。  家を出て、自転車を二人乗りをしながら帰路を進む。 「実際のところ、どうなの? 柚葉ちゃんを救い出せる手立ては考えてるの?」  後部に座る透子の声が耳元で聞こえた。 「ぶっちゃけ、わからない。柚葉ちゃんはずっと怪者の手を握っていたし、無理矢理引き剥がそうとしてもまたナイフで攻撃されるだけだし。なにか、あの子が自ら怪者の手を離すような何かがあればいいんだけど」 「何かって?」 「いや、それはまだ」  そんな会話をした二人だったが、特に解決策なども見つからないまま透子の自宅へと着いてしまう。 「とりあえず、一日考えてみるよ。何か見つかるかもしれない」 「うん。左手、安静にね」 「ありがとう。また明日」 「じゃあね」  透子と別れた忍は、夕方の空の下を自転車で走り続ける。ふと、柚葉ちゃんのことが思い出されて、途端に胸が締めつけられた。  自宅に到着し、着替えを済ませて夕飯を食べる。食事中もずっと頭の片隅には柚葉ちゃんのことがあった。  あまり楽しそうではなかった遊園地での写真。なぜか胸の部分を掴んで写る写真が多い。  彼女はどうしてあのセカイを作り上げたのか。  セカイは本人の心情や想いに反映される。多くの場合は好きな場所や思い出に残る場面をベースに作られることが多い。  無意識のことなので、記憶によって変化していくこともある。もちろん、自分自身でセカイを覗き見ることなどできないため、取り留めのない夢のようなセカイが出来上がることもある。    しかし、柚葉ちゃんのセカイはまとまりのあるしっかりとしたものだった。あれだけのセカイならば、相当強い想いがあるはずだ。  あの場所を最も楽しかった思い出として記憶している証拠。なのになぜ、柚葉ちゃんの写真は笑っていなかったのか。  考えれば考えるほどわからない。
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