忘れ者

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「どうしたの? さっきから箸が止まってるけど。傷が痛むの?」  忍の母親が心配そうに尋ねてくる。左手の包帯に関しては、学校の体育の授業で怪我をしたと嘘をついた。怪訝な顔をしながらも母親は納得していたようだ。忍の能力について、家族には話していない。余計な心配をかけるわけにもいかないから。 「いや、大丈夫」 「それならいいけど」 「そうだ兄ちゃん」    年の離れた幼稚園児の弟が何かを思い出したように席から降りて、鞄を探し出す。なんだ? と思っていると弟は、「じゃーん」と言いながら工作で作ったであろう紙でできた首飾りを見せてきた。金色の星が特徴的なそれを自慢げに見せる弟の姿はとても可愛い。 「すげーだろ」 「自分で作ったの?」 「そうだよ、すげーっしょ」 「いいじゃん、カッコいいじゃん」 「えへへへ、だろー?」  嬉しそうに兄に見せる弟の表情がふと、柚葉ちゃんと重なり、無性にやるせない気持ちになってしまう。彼女の笑った顔を早く見たい、忍は心からそう思った。  そのとき、何かが結びついたような、そんな感覚があった。  首飾り、柚葉ちゃん、胸元を掴む仕草……。 「……そうか、そうだよ、絶対そうだ!」 「え、どうしたの?」  心配そうな母親の顔を見ながら不気味な笑みを浮かべた忍は、急いでご飯を食べて部屋へと向かう。  その考えが正しいのかは、明日わかることだ。興奮を抑えながらその日、彼は眠りに就いた。
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