忘れ者

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 翌日、忍は学校帰りにもう一度柚葉ちゃんの自宅へと向かった。大学生の透子も遅れてやって来る。  子ども部屋には相変わらず、自我を失ったような顔をした柚葉ちゃんが目を開けたままベッドで横になっていた。  それを母親は心配そうな顔で見つめている。 「一つ、気づいたことがあるんです」  忍は昨夜思いついたことを話す。 「遊園地での柚葉ちゃんの写真、なぜか胸元を掴んでいる写真ばかりだった。その理由がようやくわかりました。パパかママから柚葉ちゃんに何かプレゼントしてません? ネックレスとかペンダントみたいな」 「ネックレスですか? えーと、ああ、確か以前、柚葉ちゃんが好きな子ども向けの雑誌があって、その付録で付いてきたシルバーネックレスは好きでよく付けてたような」 「それはお母さんが買ってあげたんですか?」 「そうだったかな、本屋さんに寄ったときに買ってあげたような」 「そのネックレス、見せてもらえませんか?」 「ええ、構いませんが」  母親は引き出しからそのネックレスを出して忍に見せた。  それはピンク色のハートの形をした宝石が特徴的なシルバーネックレスだった。 「忍、これがどうしたっていうの?」  隣に座る透子が疑問を口にした。 「柚葉ちゃん、遊園地へ行く当日、このお気に入りのネックレスを家に忘れてきたんじゃないかなって思って。そのことを両親に心配をかけたくないから黙っていた。  でも、やっぱりその気持ちをうまく隠せなくて、笑顔が少なくなったり、写真を撮るときにもお守り代わりのそのネックレスを掴む仕草をしてしまっていたんじゃないかなって。お母さんから貰ったそのネックレスを大事にしていて」 「……じゃあ、私のことを嫌いだとかそういうことじゃ」 「なかったと思いますよ。遊園地自体は楽しかったはずです。だからセカイの舞台にもなっている。ネックレスだけが気になっていた、それだけだったんじゃないかな」  母親は口元に手を当て、小刻みに体を震わせながら大粒の涙を流した。 「お願いします。この子を、私の子を、救ってください。お願いします」  そう言われて忍はネックレスを受け取った。  母親は仰向けになっていた柚葉ちゃんを起こし、忍の前に座らせる。 「大丈夫。絶対僕が救うから」  忍は力強くそう答える。  そして、彼は少女のセカイへもう一度、センニュウした。
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