2.御三家サミット

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2.御三家サミット

昼休みのカフェテリアにて、 シャルロットは友人たちと共にランチを食べている。 「ねえねえ、シャルロット様、  放課後は何かご予定があって?」 友人のエルザ・ウィルトンが身を乗り出した。 「ええ、大丈夫よ? 何か?」 シャルロットが小首を傾げる。 「学園の近くにとてもおしゃれなカフェを見つけたの。  それで今日皆様とご一緒できたらと思って。  とても美味しい手作りケーキを出すお店なのよ」 エルザが目を輝かせて力説すると、 「まあ、それは楽しみね。  わたくし手作りケーキは大好きよ」 シャルロットが破顔する。 そんな二人のやり取りを意味ありげな眼差しで見つめて、 友人たちが小波のように笑いを漏らす。 「まあ、エルザさんたら。お目当ては本当にケーキなのかしら?」 セリア・マークスが優雅な仕草で食後のお茶を啜り、 意味深なことを言う。 「あら、それはどういうこと?」 シャルロットが不思議そうに目を瞬かせる。 「エルザさんはね、本当はケーキではなくて、  その店のウエイターに熱を上げているのよ」 セリアの言葉にエルザが真っ赤になって否定する。 「いやだ、セリアさんたら、もう、そんなんじゃないんだから!」 そんなやり取りを、シャルロットが微笑ましく見つめている。 「しかもよりによってそんなことシャルロット様の前で言わなくてもいいじゃない。  きっとシャルロット様は私のことはしたないって思ってしまわれたわ」 エルザはしょんぼりと項垂れる。 「そんなこと思いはしないわ。  わたくしたちは今年16歳になる正真正銘の乙女よ。  そんな憧れの一つや二つを心に抱いたって、  誰にとがめられることがありますか。  わたくしはエルザさんの恋を応援しますわ」 シャルロットはエルザを元気づけるために、そっとその手に自身の手を重ねた。 そのタイミングでシャルロットの前に立ちはだかる一団があった。 「ごきげんよう、シャルロット様」 貴族院のトップに君臨する公爵家の令嬢メイサ・ルイーズと、 貴族院の中枢メンバーだった。 「ごきげんよう」 シャルロットもメイサに会釈を返す。 「ところでシャルロット様、  先ほどわたくし聞き捨てならない発言を耳にしたのですが」 メイサが意地悪そうな笑みを浮かべる。 「何かしら?」 シャルロットは、小首を傾げる。 「この国のトップに君臨するシャルロット様ともあろうお方が、  仮にも上級貴族を父に持つエルザ・ウィルトンが懸想する  ウエイターとの恋愛を応援するとかなんとか」 まるで鬼の首を取ったかのように 得意げな口ぶりでメイサがまくし立てる。 「そうよ、いけない?」 シャルロットは悪びれもせずに、真っすぐにメイサを見つめる。 「いけない、ですって? あなたはこの国の秩序をなんだとお考えなの?  その発言はわたくしたち貴族院、延いては国王陛下を侮辱するものだわ」 メイサは顔を真っ赤にして怒りを顕わにする。 「わたくしはそうは思わないわ。  我が国レイランドは美しき民主主義を掲げる国。  王侯貴族が民の尊敬を集めているのは事実ですが、  その主権はあくまでも国民にある。  ゆえに身分に捕らわれることのない恋愛や婚姻の自由は、  保障されなくてはならないわ」 シャルロットの弁にも熱が入る。 その頃合いを見計らって、 執事が一輪の白薔薇をシャルロットに持ってきて、 恭しく捧げる。 その白薔薇を見て、その場の誰もが口を閉ざした。 一輪の白薔薇が意味するもの、 それはこの国の絶対権力者である国王、もしくは、 それに準ずる位にある者からの召集を意味する。 つまりこの場合は、王太子ジークフリートからの召集である。 「あっ、いたいた」 その先に薄茶のさら髪の貴公子が佇み、 やはりその手にも、一輪の白薔薇が握られている。 「御三家サミットの召集……」 メイサが悔し気に唇を噛み締めた。 「君が言うところのこの国の秩序ってやつはさあ、  貴族院の上にこの御三家が君臨するわけだ」 アルバートはそういうと、氷の微笑を浮かべて シャルロットの手を取って立ち上がらせる。 「まあ、そういうことだから、  恭順の意を示されよ、ルイーズ公爵令嬢」 アルバートの表情の中に、いつもの飄々としたアルカイックスマイルはない。 他者を震撼させる、絶対王者のオーラがその場を支配している。 アルバートの言葉に、メイサと貴族院の面々が後ろに退いて シャルロットとアルバートに恭順の意を示す。 「ほら、行くよ! ()()()」 シャルロットはアルバートから不意に呼ばれた懐かしい愛称に、 一瞬目を見開くが、小さくため息を吐く。 「わかりましたわ、()()()()()()()。  わざわざ迎えにきてくださったのね、ご足労に感謝いたします」 シャルロットは抵抗するのを諦めてアルバートのエスコートを受け、 カフェテリアの人垣の真ん中を悠々と歩く。 「クラウディア様……ねぇ。  もう昔のようにアルとは呼んでくれないんだ?」 カフェテリアを出て、人気のない廊下に出たところで、 アルバートがシャルロットに囁いた。 「きっともう……呼べないと思うわ」 シャルロットがぎこちない笑みを浮かべると、 アルバートは自身の手に重ねられたシャルロットの手を 感慨深げに見つめた。 「あっ、もう誰もいないのだから、エスコートも必要ないわね」 反射的に引っ込めようとしたシャルロットの手を、 アルバートは離さない。 「ちょっと……クラウディア様! どういうおつもり?」 シャルロットが柳眉を吊り上げると、 「いわゆるところの最後通知ってやつかな」 アルバートは小さなため息を吐いた。 「この手を離したら、僕たちは敵同士に戻る。  そのときは容赦しないよ? 覚悟してね、()()()()()()()()
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