さかいめ

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 数日後、私は古いポラロイドカメラを持って、故郷をぶらついていた。  ポラロイドカメラは実家から発掘されたものだった。かなりの骨董品でかろうじて撮影ができるといった体だ。両親もフィルムを使い切って処分したいそうなので持ち出すことにした。  これで森とのさかいめとやらを撮影するつもりだった。夏季休業が終わって大学に戻ったら、友人に見せてやるのだ。先立って試し撮りをしたが、白いフィルムに浮き上がってきた写真の不鮮明さは、撮影した風景を現実以上に古めかしく見せており、友人のオカルト趣味を満足させるのではないかと思われた。  もう一つ目的があった。  あの女の子が立っている場所を探すことだ。  居酒屋で飲んだ日から幾度となく思い返したせいか、森と女の子のイメージは、より細かい部分までわかるようになっていた。女の子が胸ほどまで黒髪を垂らしていることや、捧げもつ風車が赤地に小花柄の和紙で、六枚羽であることもわかっていた。  最初は映画のワンシーンかと勘違いしていたが、思い返すほど鮮明になる情景に、私は、これが自分の記憶であるという確信を深めていた。  はっきりしてきたとはいえ、まだ不明瞭な部分も多い。  女の子の顔立ちや表情も曖昧だし、森も細部が漠然としている。  最初はちょっとした気がかりだったが、しだいに記憶にかかった霧を晴らしたいという気持ちが強くなっていた。  あの女の子と私は、どんな会話を交わしたのだろう。  一幅の絵のようなイメージだけでなく、そんな思い出を早く取り戻したい。そのための手がかりを探しに行くのだ。
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