さかいめ

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 故郷は盆地で、周囲をぐるりと山に囲まれている。山を切り開いた名残だろう、集落や田畑の合間には雑木林も多く見られる。友人が見たがっている景色には事欠かかないのだった。  私は田畑のさなかを通る道を歩き、目当ての場所に向かった。  まず一つ目の目的地にたどり着く。  田畑が広がる中、こんもりと一段高くなったその場所には、背の高い杉の木が集まっている。針状の影が、木々に囲まれた墓石の群れに落ちかかっていた。どの墓石も風雨で角が取れ、くすんだ緑の苔がついている。崩れかけの石垣も雰囲気を出しており、友人も気に入る画になりそうだ。  私はシャッターを切った。長いこと使われていなかったカメラのシャッターは重く、反応が鈍い。  白いフィルムに写真が浮き上がってくるのを木陰で待ちながら、汗をぬぐう。  女の子の佇む森の細部は不明瞭だったが、あの暗さからして、この木のまばらな場所ではないと思う。あの森は、暗い緑の下に不気味に影がわだかまっていて、樹々の種類も見出せないのだった。  まだ手がかりはなかったが、気持ちは奇妙に高揚していた。  なぜだろうか。周辺に、あの森がありそうな予感があるからだろうか。何の根拠もないのだが。  私は期待しながら、その場を離れた。
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